研究課題/領域番号 |
15K08711
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水野 由子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任研究員 (80436477)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヘリコバクターピロリ菌 / 齲歯、歯周炎 / 胃・十二指腸病変 |
研究実績の概要 |
グラム陰性菌のHelicobacter pylori (ヘリコバクターピロリ)菌は、慢性胃炎、胃十二指腸潰瘍、胃癌、胃MALT(Mucosa Associated Lymphoid Tissue)リンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP :Idiopathic thrombocytopenic purpura)の病態形成に関与する。また、その感染伝播の経路に関しては未だ不明な点も多く、齲歯、歯周炎がピロリ菌の病原巣として働き除菌治療後の再感染の要因となる可能性が指摘されるが、日本人での検討は十分でない。本菌は、1983年に発見され、1997年にはゲノム解析が完了し、ゲノムレベルで多型性に富むことが判明した。多くの型のうち、ピロリ菌が持つ特殊な蛋白質分泌装置(IV型分泌装置)を介して菌体から宿主細胞内に直接注入される「エフェクター分子cytotoxin-associated-A (CagA)」と、細胞に空胞編成を引き起こす「空胞化毒素Vacuolating cytotoxin A (VacA)」を産生する2菌株は、病原性が高く研究が進んでいる。なかでもCagA陽性株の感染が胃癌の発症には重要であり、胃上皮細胞に接触したピロリ菌がIV型分泌装置を介してCagAを胃上皮細胞内へ注入し、細胞内部のシグナル伝達の撹乱を惹起し、癌化に加担する。胃癌形成に関与するピロリ菌だが、血管内皮機能を障害し、酸化脂質を増加させ、動脈硬化を促進することが知られており、CagA陽性株と早期動脈硬化との関連も示唆される。本研究では、当研究施設の臨床データと保存検体を用い、ピロリ菌の亜型菌株(CagA)の解析を施行し、ピロリ菌と口腔内感染(齲歯・歯周炎)との関連、酸化ストレスの病態への関与につき検証を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予備検討に引き続き、上部消化管内視鏡検査と歯科検診を同時施行した症例の臨床情報と問診票データを取得し、統計解析を行うとともに、同意取得した検体を用いHelicobacter pyloriのゲノム多型性・亜型菌株の検証を行った。
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今後の研究の推進方策 |
Helicobacter pyloriの亜型である「cytotoxin-associated-A (CagA)」は病原性が高い。胃上皮細胞内へ注入されたCagAは、細胞内部のシグナル伝達の撹乱を惹起し癌化を促すほか、動脈硬化との関連も示唆される。本研究でも齲歯/歯周病と並行して炎症や酸化ストレスの検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
①基本検診と歯科検診の同時施行例を解析範囲とした当初の検体取得方法では統計学的検証を行うに足る症例数が集められないこと、②口腔内ピロリ感染の直接検証を増幅法や培養・鏡検法で試みたが条件の最適化が困難であることの二点の理由により、新たな手法として被験者の保存検体の解析を追加しているため、補助事業期間を延長せざるを得ない状況となった。一部未使用額が発生しているのも同様の事由である。因って、次年度は新たな研究試薬・機器の使用が見込まれる。
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