研究課題
乳がん検診の精度向上を目的とした調査、研究を継続している。マンモグラフィによる乳がん検診は20世紀後半にそのエビデンスが確立され、特に50歳以上の年代においては検診の利益である死亡率減少効果が確実なこと、検診による不利益が許容範囲であることから定期的な受診が推奨されている。その一方で49歳以下の年代では乳腺濃度が高いこと(Dense Breast)に起因する不利益が大きいために、総合的な利益は十分とは言えないことが問題視されている。超音波検査はマンモグラフィと比較して高濃度乳房での小腫瘤の診断力が高く、マンモグラフィの弱点を補う手段として期待される。我々は、我が国初の大規模な無作為化比較試験「がん対策のための戦略研究:超音波検査による乳がん検診の有効性を検証する比較試験(Japan strategic anti-cancer randomized trial, 以下J-START)」の事務局を運営しており、その主要評価項目に関する論文をThe Lancetに報告することが出来た。がん発見数・発見率は介入群で184件(0.50%)、コントロール群で117件(0.33%)であり、有意差をもって介入群で高かった(p=0.0003)。乳がん発見感度は介入群91.1%(95%CI 87.2-95.0)、コントロール群77.0%(95%CI 70.3-83.7)となり、介入群で有意に高かった(p=0.004)。一方、検診における特異度は介入群で87.7%(95%CI 87.3-88.0)とコントロール群の91.4%(95%CI 91.1-91.7)と比較して有意に低下しており(p=0.0001)、不利益の増大が懸念される結果であった。今後より不利益の少ない検診システムにできるよう、マンモグラフィと超音波の総合判定基準をブラッシュアップすることが重要と考える。集積された検診での画像データの解析により、より見逃されやすい(中間期がんとなる可能性の高い)画像所見のデータベース化を進め、検診精度の向上に寄与することを目的として研究を継続している。
3: やや遅れている
超音波検査による乳がん検診の有効性を検証する比較試験(Japan strategic anti-cancer randomized trial : J-START)では、主要評価項目に関する論文を発表できたことは大きな成果であった。また、研究の全体を俯瞰した組織作りなどに関して学会で発表を行った。一方、検診発見癌の画像データの収集を継続しているが、マンモグラフィは撮影機器・メーカー毎に独自の画像処理が働いており、これを一元的に評価することの困難さ、プリントされてデータしか残されていない場合の収集困難さ、超音波ではプリントだけが保存されていることなどから、包括的な評価には至っていない
超音波検査による乳がん検診の有効性を検証する比較試験(Japan strategic anti-cancer randomized trial : J-START)で発見された乳がん画像の解析を継続しているが、集積された検診での画像データの解析により、より見逃されやすい(中間期がんとなる可能性の高い)画像所見のデータベース化を進め、検診精度の向上に寄与することを目的として研究を継続していきたい。
本研究はJ-STARTで発見された乳癌の特性を精査することを目的としており、本年度は画像データの収集のための準備期間として調査のみ行ったため、症例の収集費用、解析機器、解析ソフトの購入費用が当初計画より少額で済んだため。
実質的な画像収集、解析を開始するための経費として使用予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
The Lancet
巻: 387 ページ: 341-348
10.1016/S0140-6736(15)00774-6