研究実績の概要 |
2010年頃よりエイズの流行が顕著になったフィリピン共和国において、治療薬を投与され12ヶ月経過した患者より臨床分離株を得て、その増殖能を検討した。 前段階として、薬剤耐性の発生状況を検討した。治療未経験者11,306人の治療薬(ジドブジン・ラミブジン・ネビラピン)を投与症例が対象群である。このうち、2015年・2016年に投与後12ヶ月に達した患者の血漿2,628を検体を解析の対象とした。血漿2,628検体のうち、抹消血液HIV濃度が1,000copies/mL以上を示したものが295検体であり、HIV-pol遺伝子配列を決定できたのは、127検体になった。127検体中107検体のHIV-pol領域に耐性マーカーとなるアミノ酸配列を認めた。以上の結果より、耐性株の割合を9%程度と推定した。 耐性調査の後残存した血漿142検体を、抗HIV抗体陰性のボランティアより得た抹消血液由来の単核細胞に暴露し、ウイルス分離を試みた。4週間の培養により142検体中37検体よりHIV株を分離することに成功した。分離株を10^6(copies/mL)に統一して抹消血液由来の単核細胞に再接種し、1週間後の到達増殖レベルを増殖能判定基準に用いた。株により増殖能は異なり、その違いの幅は1,000倍程度に及び、5x10^6(copies/mL)から3x10^9(copies/mL)まで開いた。 これらの事実は、耐性ウイルスの出現後、治療薬を変更すべきタイミングにおいて、耐性ウイルスの増殖能のレベルに注目した薬剤選択が必要であることを示している。さらに、治療薬の変更後は、特に増殖能の高い株を抑制することを優先的に考えるべきであることを示唆している。
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