研究課題
本研究では、重金属曝露と歯周病の相乗効果が早産・低体重児出産に与える影響を研究室の調査結果と合わせて解析を進めている。特に、妊婦の重金属曝露の汚染源について注目して調査を進めた。重金属調査は、妊婦の重金属曝露評価のために生体試料として血液、爪を、その汚染源として飲食物、ハウスダスト、吸引性粉じん、土壌、化粧品、ガソリンおよびエンジンオイルを回収し、その重金属濃度をICP-MS分析と蛍光エックス線分析にて測定した。また、鉛濃度の高いパキスタンの試料については、Bioaccessible鉛としての濃度もあわせて測定し、さらに、鉛同位体比分析により妊婦の鉛曝露の汚染源について網羅的な解析を実施した。これらの結果、1)早産・低体重児出産のリスクが高くなる可能性がある血中鉛濃度10 μg/dl以上が、日本の妊婦からは確認されなかったこと、2)パキスタンの妊婦では約半数の107名中53名で血中鉛濃度10 μg/dl以上が確認され、そのうちの52名がカラチ市在住であったこと、3)カラチ市妊婦の鉛曝露の汚染源としては、飲食物およびハウスダスト等が重要であること、4)パキスタンで使用されている化粧品のスルマに高濃度の鉛含有製品があること、5)パキスタンの妊婦の爪はスルマにより表面汚染している可能性があり、鉛曝露評価の生体試料として問題があることを明らかにした。重金属に関する研究成果は、雑誌論文1件、学会発表8件(うち国際学会4件)にて発表済みで、雑誌論文としてさらに1件投稿中である。歯周病調査は、日本102件、パキスタン76件のアンケート調査を実施した。この結果、パキスタンでは妊娠期の歯茎からの出血が、低体重児出産に関連している可能性が示唆され、研究成果として学会発表(2017年5月)する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
妊婦の重金属曝露の汚染源について特に注目して調査を進めた結果、本研究の成果として、雑誌論文1件、学会発表8件(うち国際学会4件)発表済み、雑誌論文としてさらに1件投稿中、学会発表1件を予定しており、当初の計画以上に進展している。重金属の調査は、日本およびパキスタン共に試料(血液、爪、飲食物、ハウスダスト、吸引性粉じん、土壌、化粧品、ガソリンおよびエンジンオイル)の回収および分析が終了し、データ解析中である。歯周病の調査は、日本およびパキスタン共にアンケート調査が終了し、データ解析中である。早産・低体重児出産の調査は、日本では正確なデータ収集が実施できた。一方、パキスタンの農村部であるガンバットにおいては出産予定日が不確かなことから、正確な早産の判定が困難となった。また、パキスタンの出生体重測定が体重計の問題により50グラム単位と大まかな測定結果となった。現在、これらの結果を踏まえて解析中である。計画していた早産・低体重児出産者を対象にした細菌検査は、妊婦の重金属曝露の汚染源調査を重視した計画に研究費の使用用途を変更したことにより未実施である。
重金属および歯周病に関するそれぞれの調査結果について個別に解析を進める。パキスタンにおける早産・低体重児出産の調査件数に制約があるが、早産・低体重児出産に対する重金属/歯周病/組合せ(重金属+歯周病)のそれぞれのオッズ比を求めてリスク評価を行い、重金属曝露と歯周病の相乗効果が早産・低体重児出産に与える影響について解析を進める。研究費の使用進捗にあわせて可能な範囲で、早産・低体重児出産者の生体試料から細菌検査を実施する。
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すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件)
Environmental Pollution
巻: 218 ページ: 723-727
10.1016/j.envpol.2016.07.068.