研究課題/領域番号 |
15K08749
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
吉田 正雄 杏林大学, 医学部, 准教授 (10296543)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 予防医学 / 公衆衛生学 / 白内障 / 緑内障 / 強度近視 / 疫学研究 |
研究実績の概要 |
わが国で実施された緑内障の疫学調査によれば、正常眼圧緑内障は全緑内障の約70%を占めることが示されている。また、米国で実施された正常眼圧緑内障を治療中の患者を追跡した大規模研究によれば、たとえ正常眼圧緑内障であっても、例外なく眼圧を下降させることが治療上、最も重要であることが明らかになっている。そこで我々は、眼圧の上昇または下降に関連する因子を解明することを目的に、眼圧値とさまざまな身体因子や生活習慣等に関する情報との関連を解析した。その結果、BMI増加、血圧上昇、喫煙習慣および1日あたりの喫煙本数は、眼圧の上昇に関与する可能性が示唆された。本研究の結果から、開放隅角緑内障患者における眼圧コントロールのために、BMIおよび血圧のコントロールとともに、禁煙が重要であると考えられたため、これらの結果を学会にて発表した。 また、白内障研究については、白内障の5年累積罹患率と身体因子や生活習慣病の病歴との関係を解析した結果、身体因子については痩せと肥満、病歴については糖尿病の既往を有することが白内障発症リスクの上昇と有意な正の関連があることが明らかとなったので、これらの結果を学会にて発表した。 一方、強度近視研究においては、乱視を有する10歳から40歳の日本人216,971眼を対象に乱視軸の分布を球面度数別に分析した。その結果、全体では180°が最も多く(96,389眼(44.4%))、次いで90°(30,495眼(14.1%))、170°(15,739眼(7.3%))となっていた。球面度数を5群(強度近視、中等度近視、弱度近視、正視、遠視)に分類し、180°と90°を球面度数別に解析した結果、近視眼と遠視眼では180°、正視眼では90°が最も多く、近視の度数が強くなるに従って180°の割合が有意に高くなる傾向を認めたので、これらの結果を国際学会にて発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)白内障研究 岩手県二戸、秋田県横手、新潟県柏崎、長野県佐久、茨城県水戸、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県石川、沖縄県宮古保健所管内に居住する住民約11万人のうち、調査開始時点において白内障を発症していなかった76,190 人(男性35,365 人、女性40,825 人)を対象に白内障罹患リスクを解明するための追跡研究を実施している。5 年間の追跡調査を行った結果、男性1,004 人(2.84%)、女性1,807 人(4.43%)が新たに白内障に罹患していた。この結果を基に、白内障罹患リスクに関連する因子を明らかにするための解析を進めている。解析の結果、痩せや肥満では白内障発症リスクが高くなるU字型の傾向を認めること、糖尿病の既往を有する者は白内障発症リスクが有意に高くなることが明らかとなったので、これらの結果を第24回日本慢性期医療学会にて発表した。本演題は、第24回日本慢性期医療学会優秀演題賞を受賞した。 2)緑内障研究 茨城県水戸地域に居住する住民1,113 人を対象に、緑内障の最も重要な危険因子の1つである眼圧に関連する因子を解明するための断面研究および追跡研究を実施している。眼圧値の上昇または下降に関連する生活習慣関連因子として、今年度は新たに喫煙習慣が眼圧と正の関連があることを明らかにすることができたので、その結果を第10回日本禁煙学会学術総会にて発表した。 3)強度近視研究 平成27年度末時点では約12万眼のデータの収集と入力を完了していたが、平成28年度には新たに約9万眼のデータを得ることができた。これまでの蓄積データは計216,971眼となり、データの収集と入力は、いずれも計画通り順調に進んでいる。現在もデータ収集と入力作業を進めている途中であるが、これまでに得られた日本人男女約21万眼のデータを解析した結果を、国際学会(ARVO2016)にて発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
1)白内障研究(データの収集と解析) 本研究により把握された白内障の症例群とこれ以外の非症例群におけるベースラインおよび追跡調査時のさまざまな生活習慣や栄養、疾病罹患等の情報に基づき、それぞれの質問票調査後に罹患したとするコホート研究を行う。白内障罹患に関連する因子を明らかにし、その結果を学会および論文にて報告する。 2)緑内障研究(データの収集と解析) 緑内障の最も重要な危険因子の1つである眼圧や、さまざまな生活習慣や栄養摂取等に関するデータの収集を実施する。これらの情報に基づき、眼圧値の上昇または下降に関連する因子を解明するための分析を行い、その結果を学会および論文にて報告する。 3)強度近視研究(データの収集と解析) 今後も対象者の追跡とデータ収集を実施する。データの収集と入力作業を進めている途中ではあるが、現在までに蓄積された約21万眼のデータを基に順次解析を進め、その結果を学会および論文にて報告する。平成28年度は新たに約9万眼のデータを得ることができたので、今年度も9万眼以上のデータの収集し、平成29年度末までに30万眼のデータを得ることをも目指す。なお、最終的には、50万眼以上のデータを収集することを目標としている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
緑内障研究と白内障研究については、ベースライン調査からすでに長期の年数を経ており、蓄積された豊富なデータを基に解析と結果の公表が概ね順調に進んでいる。特に緑内障研究については、平成28年度に新たな解析を行った結果、喫煙習慣および1日あたりの喫煙本数が眼圧上昇のリスク要因である可能性があることを明らかにできたので、その結果を学会にて公表することができた。 一方、強度近視研究については、データの収集と入力は概ね順調に進んでおり、今年度は新たに約9万眼のデータが加わり、これまでの蓄積データは計216,971眼となった。しかしながら、現在までに断面的解析は実施できているものの、縦断的解析を開始する目標である25万眼(最終目標である50万眼以上の約半数)には至らなかった。平成28年度に縦断的解析を開始する予定であったが、計画を変更し、平成29年度も新たに追跡データの入力を進めることとしたため、未使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
緑内障研究と白内障研究については、解析結果の公表が順調に進んでいるので、平成29年度も、平成28年度同様にデータの解析と結果の公表を進める。具体的には、緑内障研究では眼圧値の上昇または下降に関連する因子を解明するための分析、白内障研究では、白内障罹患に関連する因子を明らかにするための分析を進め、これらの解析結果を公表する。 一方、強度近視研究については、平成28年度に断面的解析を実施することはできたものの、縦断的解析を実施するまでには至らなかった。平成29年度も引き続きデータの収集と入力を中心に研究を進めるが、対象者の追跡と並行して縦断的解析も開始する予定である。
|