研究課題/領域番号 |
15K08749
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
吉田 正雄 杏林大学, 医学部, 准教授 (10296543)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 予防医学 / 公衆衛生学 / 白内障 / 緑内障 / 強度近視 / 疫学研究 |
研究実績の概要 |
令和2年度は強度近視研究を中心にデータの解析を進めた。なお、白内障と緑内障研究についてもデータの解析は並行して進めている。10歳から29歳の日本人290,775眼を対象に5年間の屈折度数の変化を性・年齢別に解析した結果、変動量が最も大きかったのは、10歳の-2.195D(男性-2.136D、女性-2.248D)であった。その後は加齢とともに変動量が小さくなり、変動量が最も小さかったのは、29歳の-0.151D(男性-0.179D、女性-0.133D)であった。また、14歳以前では女性の方が変動量が大きいのに対し、15歳以降では男性の方が変動量が大きいことが明らかになったので、これらの結果を国際学会(ARVO2020)にて発表(誌上発表)した。 一方、本研究では令和元年度に、紫外線カット付きおよび紫外線カットなしソフトコンタクトレンズ使用群(UV+SCL群35,734眼およびUV-SCL群21,401眼)の計57,135眼を5年間追跡し、屈折度数の変化を性・屈折度数階級別に分析した結果、男女ともに、またいずれの近視度数においてもUV-SCL群はUV+SCL群に比較して近視の進行が有意に大きいことが明らかになった。そこで、令和2年度は、コンタクトレンズの透過スペクトルのどの部分が近視進行と関連しているのかを解明することを目的に、対象者が使用していたものと同一のコンタクトレンズを入手し、UV+SCLとUV-SCLの各種レンズの分光透過率の測定を実施した。一部のレンズについてUVA、UVBおよびUVCの平均透過率の測定結果をまとめることができたので、その結果を学会(第2回レドックス・酸化ストレス・フィトケミカルズ生体計測研究会)にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
強度近視研究ではこれまで、年間約5万眼のペースで新たなデータを収集してきていたが、令和2年度は新型コロナウイルスの影響により、強度近視研究に関する近視データの収集に遅れが見られた。そこで令和2年度は、これまでに収集した10歳から29歳の日本人290,775眼のデータに基づく解析を進めた。その結果、屈折度数の変動量が最も大きいのは男女ともに10歳であること、その後は加齢とともに変動量が小さくなり変動量が最も小さいのは男女ともに29歳であること、14歳以前では女性の方が変動量が大きいのに対し、15歳以降では男性の方が変動量が大きいことが明らかになったので、この結果を国際学会にて発表(誌上発表)した。引き続きデータの収集と解析を進め、令和3年度には全てのデータ収集を完了し、近視の進行に関連する因子を明らかにする。 一方、紫外線暴露による近視の進行への影響に関する研究については進展がみられたものの、対象者が使用していたUV+SCLとUV-SCLの全てのレンズの分光透過率の測定を完了するまでには至らなかった。令和元年度に実施したUV+SCL群およびUV-SCL群の5年間の屈折度数の変化に関する分析により、紫外線暴露は近視を進行させるリスク要因である可能性が示唆された。そこで、令和2年度は、対象者が使用していたものと同一のコンタクトレンズを入手し、UV+SCLとUV-SCLの分光透過率の測定に着手した。現在、UV+SCLとUV-SCLの各種レンズの分光透過率の測定を進めているところであるが、一部のレンズについてUVA、UVBおよびUVCの平均透過率の測定結果をまとめることができたので、その結果を学会にて発表した。引き続き測定と解析を進め、令和3年度には全てのレンズの分光透過率の測定を完了し、レンズのUVA、UVBおよびUVCの平均透過率と5年間の屈折度数の変動量との関連を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
1)白内障研究(データの解析) 本研究により把握された白内障の症例群とこれ以外の非症例群におけるベースラインおよび追跡調査時のさまざまな生活習慣や栄養、疾病罹患等の情報に基づき、それぞれの質問票調査後に罹患したとするコホート研究を行う。白内障罹患に関連する因子を明らかにし、その結果を学会および論文にて報告する。 2)緑内障研究(データの解析) 緑内障の最も重要な危険因子の1つである眼圧や、さまざまな生活習慣や栄養摂取等に関するデータの収集を実施する。これらの情報に基づき、眼圧値の上昇または下降に関連する因子を解明するための分析を行い、その結果を学会および論文にて報告する。 3)強度近視研究(データの収集と解析) 令和3年度も対象者の追跡、データ収集および入力作業を進めるとともに、現在までに蓄積された約30万眼のデータを基に順次解析を進め、近視進行および強度近視に関連する因子を解明するための分析を行い、その結果を学会および論文にて報告する。また、UV+SCLとUV-SCLの各種レンズの分光透過率の測定を継続し、対象者が使用していた全てのレンズの分光透過率の測定を完了する。これらの測定結果に基づき、レンズのUVA、UVBおよびUVCの平均透過率と5年間の屈折度数の変動量との関係を性・年齢別に分析し、紫外線暴露が近視を進行させるリスク要因であるのかどうかを解明し、その結果を学会および論文にて報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
緑内障、白内障および強度近視について、いずれの研究もベースライン調査からすでに長期の年数を経ており、蓄積された豊富なデータを基に解析と結果の公表が概ね順調に進んでいる。特に強度近視研究については、これまでの縦断的解析の結果、男女ともに、またいずれの近視度数においてもUV-SCL群はUV+SCL群に比較して近視の進行が有意に大きいことが明らかになった。さらに令和2年度には、UV+SCLとUV-SCLの分光透過率の測定に着手することができ、一部のレンズについてUVA、UVBおよびUVCの平均透過率の測定結果をまとめることができた。しかしながら、令和2年度は新型コロナウイルスの影響により、近視データの収集と各種レンズの分光透過率の測定に遅れが見られたために、紫外線暴露が近視を進行させるリスク要因である科学的根拠を解明するまでには至らなかった。令和2年度には、近視データの収集と対象者が使用していた全てのレンズの分光透過率の測定を完了する予定であったが、令和3年度も引き続き近視データの収集と分光透過率の測定を進め、UVA、UVBおよびUVCの平均透過率と5年間の屈折度数の変動量との関連を解明することとしたため未使用額が生じた。
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