研究実績の概要 |
約2,000人規模の製造業のある事業所の労働者を対象に、2011年から2017年度まで毎年の不眠(アテネ不眠尺度)と抑うつ(CES-D)などを職場健診の機会に調査した。各被験者の経年経過を解析できるようデータベースを整備した。解析対象者として、60歳以下の男性の日勤者に限定するとともに、精神疾患や睡眠時無呼吸症候群の既往・治療中の者を除外し、初年度ベースライン時に抑うつのないもの(CES-D 総得点が16点未満)をコホート対象者とした。結果的に、1,332名(平均年齢38.8±14.3歳)を解析対象者とした。この解析対象者1,332名について、2011年から2017年までの間の抑うつ発症の追跡とともに、発症要因について解析した。各被験者の平均観察年数は2.9年で、6年間の追跡中の抑うつ発症者(CES-D16点以上)は352名(発症率26.4%)であった。抑うつ発症に関連する要因について、年齢など関連要因を調整し、不眠の程度別(AISの得点区分)での抑うつ発症リスクをCox回帰分析で検討した。その結果、不眠ありでは睡眠障害(AIS点数6点以上)は、うつ病(うつ症状)発症の危険因子(HR 4.32, 95% CI 2.49-7.21)であることが示された。さらに、AIS点数1-3点の不眠症ではないとされる群でもHR 1.99(95% CI 1.23-3.22)と0点の群より高いリスクがみられた。また、4-5点群ではHR 3.58(95% CI 2.18-5.89)とより高くなった。今回の結果では、不眠症の程度が強い(AIS点数が高い)ほど、その後のうつ症状発症リスクが高くなること、加えて、1点でも不眠症状がある場合にはうつ症状発症リスクが高くなることが示唆された。そして、職場のうつ病対策として、睡眠障害にも注意を向ける必要性を示した。
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