研究課題
黄色ブドウ球菌は医療機関での分離率が感染起因菌の中で最も多く,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)と合わせると 30 % を超える。ブドウ球菌属細菌は,可動性遺伝子エレメント Staphylococcus Cassette Chromosome (SCC)の水平伝播により遺伝情報を共有すると考えられている。最も良く研究されている SCC としてメチシリン耐性を担う mecA 遺伝子をコードする SCCmec が挙げられる。SCCmec は多様性に富み,現在 I-XIII の 13 種類の型が報告されている。SCCmec の他にも多様な SCC が存在する。アルギニン代謝系酵素遺伝子群 arc を持つ SCC,即ち arginine catabolic mobile element(ACME)は,CoNS のひとつ表皮ブドウ球菌から黄色ブドウ球菌に伝播し,宿主ブドウ球菌に低 pH 耐性を付与する。複数の SCC が直列に連結し,SCC 複合体を構成して挿入される場合もある。本研究期間を通じ,北海道から分離された SCCmec II 型の MRSA において,ACME 保有率が 0.85% から 4.5 % まで継続的に上昇したことを明らかにした。これは ACME が組織への定着・生存へ有意に働き,宿主ブドウ球菌に選択的優位性を与えるという仮説に矛盾しない結果である。更に ACME を含む SCC 複合体の多様な遺伝子構造を明らかにしてきた。最終年度は,北海道から分離された MRSA の SCC 複合体中に新たな SCCmec 型を見いだし,国際的な命名委員会より新規の XIV 型と認定された。以上の結果は SCC が遺伝子再編により更に複雑化していること,その一因として SCC の水平伝播が関与していることを示す。継続的な調査による動態の把握が必要と思われる。
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Microb Drug Resist
巻: 25 ページ: 241-250
10.1089/mdr.2018.0123