研究課題
アスベストは肺がんや悪性中皮腫を引き起こすことが知られている。我々はアスベストが正常細胞のがん化を誘導することに加えて、アスベスト曝露が腫瘍免疫を抑制し、がんが成長する環境を形成することを提唱している。しかし、これまでのアスベストの作用に関する多くの研究は上皮細胞や中皮細胞を用いて行われてきており、免疫担当細胞に対するアスベストの詳細な作用に関する研究はほとんど行われていない。そこで、本研究ではアスベスト曝露が腫瘍免疫を低下するメカニズムを明らかにすることを目的として、以下の実験により免疫担当細胞に対するアスベストの作用を検討した。これまで上皮細胞や中皮細胞を用いた解析からアスベスト曝露はミトコンドリアに作用しCytochrome C の放出と活性酸素の産生を誘導することが提唱されている。Cytochrome Cはアポトーシスの実行因子であるカスパーゼを活性化し、活性酸素はDNA 損傷や小胞体ストレスなどのストレス応答とアポトーシスを引き起こすことが知られている。そこで、制御性T細胞のモデル細胞株であるMT-2細胞にアスベスト曝露を加え、ミトコンドリア膜電位に対するアスベスト曝露の影響を解析した。その結果、アスベスト曝露を加えた細胞ではミトコンドリア膜電位が顕著に低下したことから、MT-2細胞においてもアスベスト曝露がミトコンドリアにダメージを与えることが明らかになった。さらに、我々の過去の検討ではアスベスト短期曝露が活性酸素の誘導すること、また、活性酸素スカベンジャーがアスベスト曝露によるアポトーシスを抑制することを報告している。これらの結果から、アスベスト曝露は他の細胞種と同様に免疫担当細胞においてもミトコンドリア機能を阻害し、活性酸素の産生とアポトーシスを誘導することが示唆された。
3: やや遅れている
研究計画ではアスベスト短期曝露影響の指標としてミトコンドリアから細胞質へのCytochrome C の放出や核内のDNA損傷の発生を各種マーカーの特異抗体を用いた細胞免疫染色法により検討することを予定していた。しかしながら、MT-2細胞を用いた上記の実験手法の確立に時間を要したため、これらの研究課題の実施に遅れが生じている。
平成28年度は当初の計画に従い、アスベスト長期曝露による転写因子FoxP3の発現低下のメカニズムを明らかにすることを目的として以下の解析を予定している。DNAメチル化の解析)バイサルファイト・シークエンス法によりFoxP3の発現調節に関与するエンハンサー領域内のシステイン残基のメチル化を検討する。ヒストン修飾の解析)ヒストンH3、H4のアセチル化修飾やトリメチル化修飾を認識する抗体を用いたクロマチン免疫沈降・PCR解析によりFoxP3遺伝子の発現調節領域内のヒストン修飾の解析を行う。転写因子の解析)FoxP3の発現調節に関与することが知られている各種転写因子の発現量を定量RT-PCR法やウェスタンブロットを用いて検討する。上記の解析に加えて以下の解析を計画に加えている。レポーターシステムを用いた転写調節領域の検索)ルシフェラーゼcDNAの上流にFoxP3のプロモーター領域とエンハンサー領域の全部または一部を組み込んだレポータープラスミドを作成する。作成したプラスミドを用いたレポーターアッセイによりMT-2親細胞とアスベスト長期曝露細胞内でFoxP3の発現量を制御する領域を検討する。上記の解析と並行して平成27年度に予定していたアスベスト短期曝露によるミトコンドリアから細胞質へのCytochrome C の放出やDNA損傷の発生を解析するとともに、JNKやp53 を始めとする酸化ストレスやDNA 損傷、小胞体ストレスのシグナル伝達分子群の挙動をウェスタンブロットやマルチプレックス法を用いて検討する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
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