研究課題
アスベスト繊維は呼吸により体内へと取り込まれ、上皮細胞や中皮細胞のがん化を誘導し、肺がんや悪性中皮腫を引き起こすことが知られている。これに対して我々はアスベスト曝露が正常細胞のがん化を誘導するのみならず、腫瘍免疫機構を抑制し、がん細胞の増殖を促進することを提唱している。即ち、免疫担当細胞の一つである制御性T細胞モデル培養株MT-2を用いて検討を行い、高濃度アスベストの短期曝露がアポトーシスを誘導すること、低濃度アスベスト存在下での長期間培養は転写因子FoxO1やFoxP3の発現低下させること、アスベスト短期曝露への抵抗性を付与することを明らかにしてきた。さらに、前年度までの研究によりアスベスト短期曝露がミトコンドリアの機能を低下させ、活性酸素の産生を誘導することを明らかにしている。平成28年度はFoxP3プロモーターを導入したレポータープラスミドを用いてアスベスト長期曝露によるFoxP3の発現低下のメカニズムを検討するとともに、アスベスト短期曝露により誘導されることが予想されるDNA損傷や小胞体ストレスのシグナル伝達分子に対する抗体を用いたイムのブロット解析を行った。その結果、アスベスト長期曝露細胞とコントロール細胞間にFoxP3レポーターの発現量の顕著な差は観察されず、アスベスト長期曝露によるFoxP3の発現低下にはDNAメチル化やヒストン修飾などの調節機構が関与する可能性が示された。一方、アスベスト短期曝露によりDNA損傷のシグナル伝達分子であるタンパク質リン酸化酵素Chk1とヒストンH2AXのリン酸化が誘導されることが明らかとなった。これらの研究成果から、アスベスト短期曝露によるアポトーシスの誘導にはミトコンドリア機能低下とDNA損傷が関わることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度はアスベスト長期曝露によるFoxP3発現低下のメカニズムの解析として当初から予定していたFoxP3発現調節領域のDNAメチル化解析とヒストン修飾解析に加えて、FoxP3の発現調節領域を導入したレポータープラスミドを用いたプロモーター解析を実施した。その結果、研究計画の進行に若干の遅れが生じているものの、レポーター解析から有用な情報が得られており、今後の研究の加速が期待されることから本研究課題を概ね順調に実施できていると考えている。
平成29年度はアスベスト長期曝露に伴うFoxP3の発現低下のメカニズムを解明することを目的として既に開始している以下の実験を継続する。1)アスベスト長期曝露MT-2細胞と親細胞よりゲノムDNAを精製し、バイサルファイト法を用いてFoxP3転写調節領域中のDNAのメチル化レベルを解析する。2)アスベスト長期曝露MT-2細胞と親細胞抽出液より各種修飾を受けたヒストンに対する特異抗体を用いたクロマチン免疫沈降を行い、定量PCR解析によりFoxP3発現調節領域内のヒストン修飾を検討する。3)FoxP3の発現調節に関わることが知られている転写因子群の発現量をRT-PCR法、ウェスタンブロット法により検討する。前年度までの研究によりアスベスト短期曝露の影響として見出されているミトコンドリア膜電位の低下とDNA損傷シグナルに着目し、アスベスト長期曝露MT-2細胞と親細胞の比較を行うとともに、FoxO1およびFoxP3の高発現やノックダウンの効果を検討する。また、健常人末梢血より単離した正常制御性T細胞または正常T細胞を用いてアスベスト曝露によるアポトーシス誘導、ミトコンドリア機能とDNA損傷シグナルに与える影響を解析する。
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