ナノ粒子は、ミクロンサイズ粒子に比較して、肺に対する影響が重篤であるという多数の報告があり、さらに繊維状のナノ材料は、その形状がアスベストに似ていることから、同じ化学組成をもつナノ粒子よりも有害性が高いことが予測される。そのため、本研究では、一種類の市販の銀ナノワイヤーを原材料として、繊維径は同じで長さの異なる銀ナノワイヤーを作製し、その長さが有害性におよぼす影響を検討した。 方法は、作製した長短2種類の銀ナノワイヤーをそれぞれ0.5mg/0.4ml/ratの量でラットの気管内に注入し、注入後のラットの肺重量および肺胞洗浄液中の総細胞数、好中球数、LDH活性等を測定、また病理組織の観察を行った。陰性対照群には同量の蒸留水を注入した。注入後の観察期間は、3日、1、3、6、12ヶ月後とした。 その結果、注入3日目に認められた長短ナノワイヤー注入群の肺重量および肺胞洗浄液中の総細胞数、好中球数、LDH活性の有意な増加は、3ヶ月ごろから12ヶ月には陰性対照群と同程度の値となっており、両注入群ともに反応が徐々におさまる傾向であった。しかし、長短の差については注入1ヶ月後に肺重量や、肺胞洗浄液中の総細胞数、好中球数、LDH活性が、短繊維注入群において長繊維注入群に比較して有意に上昇していた。 病理組織においては、両注入群に銀ナノワイヤーの沈着を伴った肺胞マクロファージの増加や肺胞上皮細胞の増生が認められたが、注入初期にはその程度が長繊維注入群で著しく、1ヶ月後には逆転し、短繊維注入群に著しく認められた。これは気管支肺胞洗浄液中の有害性指標と相関していた。3ヶ月以降は、長短繊維注入群ともに、その変化は徐々に減少し、6、12ヶ月後には、陰性対照群と差が認められなくなっていた。組織中の銀ナノワイヤーの存在も徐々に認められなくなっていった。観察期間を通して腫瘍の発生は認められなかった。
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