研究課題/領域番号 |
15K08793
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研究機関 | 神戸市環境保健研究所 |
研究代表者 |
岩本 朋忠 神戸市環境保健研究所, その他部局等, 部長 (70416402)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 抗酸菌 / Mycobacterium avium / コアゲノムSNP / 集団ゲノミクス |
研究実績の概要 |
鳥型結核菌(Mycobacterium avium)の亜種であるM. avium sp. hominissuis(MAH)を原因とする肺MAC症が急速に増加している。MAHは人以外の動物宿主や自然環境からも見つかるが、その生活様式については未だ十分には解明されていない。我々はMAHの適応戦略を解明するため、ヒト以外の単離源由来のものを含め、日本で単離されたMAH12株のゲノムを決定した。それらとデータベース内の他国単離株24株の情報を合わせ、計36株のゲノム情報を用いて一連の集団ゲノミクス解析を行った。コアゲノムSNP情報を用いた集団構造解析から、MAH集団内に大きく分けて5つの系統があること、MAHはゲノムワイドに種内相互組換えを行う「性をもつ細菌」であることが判明した。遺伝子レパートリー解析から、「東アジア系統」のゲノムには、他の系統が持つものとは配列の大きく異なる対立遺伝子をもつ座がいくつかあることが明らかになった。さらに、病原性に関わる特定の遺伝子群については系統間移動が確認された。これらから、MAHは、種内遺伝子交換によって適応的な対立遺伝子を集団内に拡散する戦略をもつと推察された。加えて、様々な単離源由来の株が各MAH系統内に含まれることから、「宿主から放たれると環境中にプールされ、そこで交配し、多様なゲノムが生まれ、生じた子孫が各動物宿主に取り込まれて自然選択を受ける。」というMAHのライフサイクルが推察された。MAHのゲノム進化と生存戦略は、遅発育性の病原細菌の長期的および短期的進化を理解する上で、優れたモデルになるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MAHがゲノムワイドに種内相互組換えを行う「性をもつ細菌」であることを世界で初めて立証した。さらに、その生存戦略として、種内遺伝子交換によって適応的な対立遺伝子を集団内に拡散する戦略をもつことが推察された。これらの知見は、本研究課題である、肺MAC症感染様式の地域差を生み出す根幹に迫るものと言える。2年間での研究成果としては、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行った比較ゲノム解析では、DNAメチル化系がMAHの東アジア系統株に特異的なゲノミックアイランドに組み込まれていることが判明した。このことから、我々はユニークなメチル化系の取得が、転写制御または外来遺伝子取り込みの制御を介して、東アジア株の表現型発現に寄与しているとの仮説を立てている。メチローム解析が可能なPacBioデータを利用することで、これらのメチル化系の標的配列を解明し、本仮説の検証の出発点とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンサー(イルミナ社 MiSeq)の購入時期が、当初予定よりも遅くなり、11月になったため、予定していた試薬を年度内に購入することができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次世代シーケンサーによる解析に使用する試薬の購入を、年度当初から行うことで、すべての予算を執行する。
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