研究課題/領域番号 |
15K08796
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
森松 組子 (吉松組子) 北海道大学, 医学研究科, 准教授 (90220722)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ハンタウイルス / 慢性腎臓病 / インフルエンザ様疾患 |
研究実績の概要 |
スリランカは南アジアの島国であり固有の動物層を持っている。たびたびレプトスピラ症の流行が起こり問題となっているが、その患者の中に抗ハンタウイルス抗体陽性例が確認され、未診断の症例が数多くあることが予想されている。レプトスピラ症とハンタウイルス感染症は臨床的には症状に共通するものが多く、その鑑別診断はきわめて困難である。また、両疾患ともにげっ歯類が重要な役割を果たす人獣共通感染症である。本研究ではスリランカにおけるハンタウイルス感染症の実態を明らかにする事を目的とする。 ペラデニア大学教育病院で収集した、デングウイルス陰性、インフルエンザウイルス陰性の原因文患者の中にハンタウイルス感染症およびレプトスピラ症と考えられる患者が見つかった。抗ハンタウイルスIgM陽性患者は血清型を解析した結果、タイランド型ハンタウイルスに罹患していると考えられた。これらの患者は腎臓症状および出血の症状を欠き、中国・韓国などの東アジアで見いだされる腎症候性出血熱とは異なる病態を示した。スリランカのハンタウイルスは不明熱患者の5-7%を占め、症状は軽度あるいは無症候であると考えられた。一方でレプトスピラ症は不明熱患者の50%近くを占める可能性があると考えられた。 スリランカ中央部のKandyの市場において小型ほ乳類の調査を行った。その結果、優勢種はクマネズミ(ヨーロッパ型に近縁なスリランカ固有種)であり、これらの中から2例のハンタウイルス抗体陽性が見いだされた。一方、捕獲されたオニネズミは少数であり、ウイルスを保有している個体は見いだされなかった。一方、レプトスピラはげっ歯類ではなく旧食虫目に属するShrewであるSuncus murinusから高率に検出された。多遺伝子座解析の結果、L. borgepetersoniiを保有していることが明らかとなった。スリランカにおいてはshrewがレプトスピラ症の感染源となっている可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スリランカにおけるレプトスピラ症とハンタウイルス感染症の健康被害を調べるため、ペラデニア大学教育病院で収集した不明熱のほか、中央州、ウバ州の健常人および原因不明の慢性腎臓疾患(CKDu)患者血清およそ900検体の抗体を調査した。その結果、CKDu患者の約半数がハンタウイルス抗体を保有していた。一方で、レプトスピラ症とCKDuとの関連はなかった。 スリランカでは北部および北東部の乾燥地帯を中心にCKDuが1990年代より急増し、大きな社会問題となっている。先進国の慢性腎臓疾患(CKD)は糖尿病・高血圧症などの生活習慣病を原因疾患とする疾病であるが、スリランカのCKDuはこれと言った原因疾患を持たず働き盛りの農業従事者の男性に好発し、「流行地」を持つ点が先進国のCKDとは大きく異なる。流行地では働き手が次々と失われ、コミュニティーの維持が困難となっている。農業生産へのダメージに加え血液透析・腎臓移植を必要とする患者が急増し、医療への加重も社会問題となっており、CKDuはスリランカの国家的な課題となっている。これまでCKDu原因として様々な環境因子が疑われたが、その原因は不明とされている。本研究では、はじめてハンタウイルス感染症のCKDu発症への関与を示唆する結果を得、学術雑誌に公表した。この報告は大きな反響を呼び、今後詳細を解明する必要ことが望まれている。
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今後の研究の推進方策 |
ハンタウイルス感染制御がスリランカの国家的な課題であるCKDuの制御につながる可能性があることから、流行地における宿主げっ歯類の解明、ウイルス遺伝子配列の特定、感染様式の解明が求められている。最終年度はCKDu流行地における小型ほ乳類の調査を行い、ウイルスを保有しているげっ歯類を明らかにする。げっ歯類の種はミトコンドリアDNAの配列により推測する。また、住居および農地でのげっ歯類の調査を行う。感染者は男性が多く、おそらく稲作作業従事中に感染したげっ歯類の尿を含むエアロゾルにより経気道手感染している可能性が考えられる。 スリランカには多くのCKDu流行地がある。現在までにGirrandrukotte, およびWilgamuaの2カ所でCKDu患者における高い抗ハンタウイルス抗体の保有が確認されている。流行地では尿タンパクに以上の無い健常人でも15%の抗体保有率があり、患者では47%前後の保有率である。男性では60%近い。今年度はさらに調査の地域を増やしてこれらの結果の確認を進める。また、年齢と性別のデータをもとに、どのような確率と経緯で感染からCKDuに至るのかを考察することを試みる。
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