平成29年度は「手段的自殺の長期的推移」に関する検討を実施した。 20世紀に入り、家庭用ガスや自動車が一般に普及するに伴い、家庭用ガスや排気ガスを使用した自殺者数が増加した。その後、英国や米国などからの報告によると、家庭用ガスや車の排気ガスに含まれる一酸化炭素濃度の減少に伴い、これらのガスを使用した自殺者数が低下していた。日本でも、1970年代以降これらのガスに含まれる一酸化炭素濃度は低減されているが、それによる自殺への影響はまだ明らかではない。そこで本研究では、1968年から1994年の期間における日本のガスによる自殺の性別年齢階級別の推移を解析した。 家庭用ガスによる自殺率は、性年齢に関わらず、1970年代初めまで増加し、1970年代中頃にピークとなり、以降急速に減少している。1970年代初めから、徐々に日本の都市ガスは低毒性のガスに置換されており、これにより家庭用ガスによる自殺率は急速に低下したと考えられる。 一方、排気ガスによる自殺率の推移は、性年齢によりかなり異なっていた。男性15-24歳におけるこの自殺率のピークは1970年代中頃であり、男性25-44歳および45-64歳のピークは1980年代初めであった。男性の65歳以上及び女性の全年齢階級では、排気ガスによる自殺率は低い水準にとどまっていた。日本の排気ガス規制は1970年代中頃に強化され、欧米とほぼ同様の水準であった。しかしながら、1980年代中頃まで排気ガスによる成人男性の自殺者数が増加しており、これは日本では排気ガス規制の自殺者数への影響は限定的であったことを示唆している。 平成27から29年度にかけて実施した一連の研究により、日本においても諸外国と同様に、毒性の高い薬物やガスなどを比較的簡単に入手し利用できることが、自殺者数を増加させた可能性があるということを示した、と考えている。
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