研究課題
川崎病は乳幼児に好発する急性の全身性血管炎で、後天性の心障害の原因となる。病因は解明されておらず、その疫学的特徴から感染性因子の関与が示唆されている。本研究では、発症に感染性因子が関与するならば、宿主の年齢は重要な条件の1つと仮説を立て、罹患者の発症時の年齢層によって、性別の分布や発症した季節に特徴があるかを調べた。和歌山川崎病研究会が年1回実施した和歌山県内の小児科病床を有する医療機関を対象とした川崎病新規症例の調査(回収割合100%)の資料をもとに電子データベースを構築した。本研究では連続する1945例を対象に疫学的記述を行った。発症時年齢は5分割(4か月未満、4-10か月、11-47か月、48-83か月、84か月以上)し、その特徴を分析した。全体では、男女比は1.4で、年齢は1か月から212か月に分布を認めた。年齢層別に観察した結果、4か月未満で男女比は2.0で、年齢が大きくなるにつれて罹患者に占める男児の割合が小さくなる線形の関連を認め、7歳以上の年齢層では男女比が逆転して1未満であった。川崎病発症の季節性については、全体では冬が33%を占め、秋は19%であった。年齢層別に観察すると、4か月未満の6割が夏と秋に発症していた。本研究の特徴として、研究対象としたデータの選択バイアスが小さいことがある。和歌山県は疫学研究に有利な地理的条件を備えており、県内全域から17年間に報告された全症例を対象として研究を実施した点が本研究の強みである。川崎病発症時の患者年齢と発症の季節性については、年齢層によって発症のトリガーとなる環境要因(ここでは感染性因子を仮定している)が異なることを示唆する結果と考えている。
2: おおむね順調に進展している
本研究では和歌山川崎病研究会が毎年実施している新規発症例調査の結果をもとに、和歌山県内全域の1945症例を対象とした疫学研究を実施した。川崎病発症の季節性について、特に乳児期早期で、最も罹患しやすい年齢層とは異なる特徴がある可能性を見出した。新たな知見として、年齢層によって罹患者の男女比が異なることを見出した。今年度は、それら知見を国際雑誌に公表し、第38回日本川崎病学会で報告した。
現在、治療抵抗性並びに冠動脈瘤形成について、年齢と性別に注目して、分析を実施している。実臨床では、免疫グロブリン超大量静注療法への治療抵抗例であることは、冠動脈瘤形成の高リスクであるが、その一方で、治療に難渋しなかった症例群からも冠動脈瘤の発生があることは少なからず経験されている。そのため、治療抵抗性を認めた症例および冠動脈瘤形成症例について、より詳細な検討を必要としている。本研究で得られた新たな知見として、川崎病発症の男女比が年齢層が上がるにつれて小さかったことについて、何らかの宿主―環境要因の相互作用の結果を観察したものと考えているが、そのメカニズムは説明出来ていない。川崎病発症並びに冠動脈瘤形成における年齢と性別の疫学的特徴を説明するに寄与する先行研究はまだ不足している。本研究のこれまでの結果から、川崎病発症においても急性期の冠動脈瘤形成においても年齢と性別は特に重要な要素であると位置づけて今後の研究を進める。
研究課題全体の目的は、川崎病発症に関わる環境要因の解明であり、川崎病の疫学的特徴について宿主―環境要因の相互作用で説明可能かどうか検証することである。本研究では、和歌山県内で発症した川崎病症例を対象とした疫学研究によって、発症の季節性が病因探索と治療法改良の双方の糸口となることを示唆する結果を得ている。それら研究結果について国際雑誌への投稿を予定して英文論文を準備中であるが、時間を要している。そのため、次年度に入ってから論文投稿となる見込みであり、補助事業期間の延長を申請して承認を得たところである。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
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