これまでの消化器内視鏡を介した院内感染の報告の調査から、圧倒的に検査件数の多くを占める上部消化管内視鏡ではなく、十二指腸鏡を介した多剤耐性菌による院内感染が増加していることが明らかとなった。これまでの洗浄前後における残留蛋白濃度を指標とした検討からは、ほぼ安定した洗浄効果が得られることが判明していたが、さらに十二指腸鏡を含む、消化器内視鏡の洗浄における課題を明らかにするとともに、より簡便で、臨床現場での応用が容易なインジケーターを確立することを目指して、ATPおよびAMPを指標とした清浄度評価を行った。検討部位として、鉗子起上台、鉗子孔、スコープ先端およびスコープ先端側面について、洗浄前後、保管後の清浄度の評価を行い、併せて、清浄度に関わる要因を検討した。この結果、ATPなどの指標は、消化器内視鏡の清浄度の評価法として有用であることが明らかとなった。消化器内視鏡の部位別に検討すると、十二指腸スコープ外表面および鉗子孔の洗浄後の清浄度は高く、通常の前方視の内視鏡(直視鏡)と違いは認めなかったが、洗浄後の十二指腸鏡特有の構造である鉗子起上台部、および保管後の先端部は相対的に清浄度が低く、かつ洗浄後の清浄度の変動幅が大きい傾向があることが明らかとなった。こうした洗浄後の十二指腸内視鏡の清浄度を規定する因子として、構造の複雑性や経年劣化、汚染の程度などが推定されたが、今回の検討から直接的な規定要因まで特定することはできなかった。 本研究で得られた結果は日本消化器内視鏡学会、日本感染環境学会、日本ヘリコバクター学会などの関連学会の総会・教育講演および学会誌等を通じて発表した。さらにこれまでの感染事例および本研究を通じて明らかとなった洗浄上の注意点を踏まえた医療従事者向けのe-ラーニングを試作した。
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