2008年から2014年のJANIS検査部門データによると、Bacillus属の分離数には医療機関間の顕著な差異があり、かつ夏に増加する明確な季節性が存在する。しかしBacillus属は菌種同定未実施株が多く、Bacillus属分離率が高くても、B. cereusによるものか、B. subtilisなど他菌種によるものかの鑑別はJANISデータ上できなかった。 臨床分離株におけるB. cereusの割合を明らかにするため、2017年から2018年度末にかけ、研究協力医療機関3施設より臨床検体から分離されるすべてのBacillus属の分与を受け検討した。Bacillus属におけるB. cereusは、2017年は2施設の182株中31株(17%)であったが、2018年は3施設の204株中14株(7%)と減少した。2018年はBacillus属の各医療機関での分離数も2017年にくらべ約30%程度減少しており、主に5月から9月の夏季の分離数の減少によるものであった。同定菌種名を含まないBacillus属の分離数であってもその高低はB. cereus分離数と相関しうる可能性があり、季節性を考慮したうえでその推移を評価し、増加時には環境やリネン類の取り扱いを見直すことが有用と考えられた。 また、B. cereusによる重篤な院内感染事例のほとんどが日本からの報告であり、その要因としてST1420の関与が示唆された。ST1420 は新規に登録されたSTであり炭疽菌に最も近いCereus III lineageに属する。また国内の大規模な院内感染事例ではST1420を含むB. cereusが分離されていた。Bacillus属分離数の多い施設では積極的に菌種同定を行い、B. cereusであればさらにそのST型を解析することで、重篤例を含む院内感染の発生予防に寄与できる可能性が示唆された。
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