2017年5月―2018年11月に地域の20か所の診療所を対象として、本研究班が開発した標準ケア情報提供書を介入とした無作為比較研究を行った。最終的に対照群99例、介入群78例、計177例に研究が行われた。うち、入院中の死亡、90日を越えた入院などの脱落例を除いた140例(介入群58例、対照群82例)のうち有効回答が得られた112例(介入群45例、対照群67例)を解析対象とした。平均年齢は86.4歳、女性は62.5%を占め、61名(54.5%)が要介護4以上であった。独居は8名(7.1%)にとどまった。これらの背景因子は群間に有意差を認めなかった。主要アウトカムである介護者による入院経験の評価項目については因子分析により「患者の希望」「療養環境理解」「今後の療養先への配慮」「退院目標」「退院支援」の5因子を抽出しそれぞれについて群間で比較したが、有意差はみとめなかった。また、HPSQ-13で測定した入院満足度についても群間に有意差は見られなかった。二次アウトカムである退院30日以内の緊急受診および再入院についても群間差は見られなかった。入院中の主治医と病院のコミュニケーションについては、「入院中の問い合わせ」「入院時の目標達成」「病院スタッフとの情報共有」の項目について有意差は認められなかったが、「退院前の退院日の外来主治医への通知」は介入群のほうがむしろ有意に低かった(介入群44.4%、対照群65.7%、p=0.026)。 以上より、今回の標準ケア情報提供書による情報共有は入院ケアの改善には効果を認めなかったと考えられた。この理由として①情報共有自体が成し遂げられなかった②情報共有は行われたが活用されなかった③情報伝達以外の要因が与える影響、等が考えられた。今回得られた知見をもとに、ケア移行時の情報伝達・共有を効果的に行うためのより有効な方法を開発する必要があると考える。
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