研究実績の概要 |
研究実績の概要;高度脂肪肝を伴う突然死例において蓄積された脂肪酸の解析とその原因遺伝子の探索を、最新の検査方法導入により、短時間で集約的に実施する死因究明プロトコールを確立することが本研究の目的である。 最新の検査方法には、BrukerDaltonics社製MALDI-TOF/TOF型質量分析装置を用いたイメージング質量分析や、第二世代高速シークエンサーPacBioの使用が含まれている。我々は高度脂肪肝を伴う乳児の突然死症例に遭遇し、解剖検査を実施し、死後画像検査や病理組織学的検査から高度脂肪肝を伴う内因性急死と判断し、イメージング質量分析を用いた脂肪酸解析を行い、その結果に基づいて責任遺伝子を調べ、脂肪酸代謝遺伝子の新規変異を見出した(Takahashi Y, Sano R, Nakajima T, Kominato Y, Kubo R, Takahashi K, Ohshima N, Hirano T, Kobayashi S, Shimada T, Tokue H, Awata S, Hirasawa S, Ishige T: Combination of postmortem mass spectrometry imaging and genetic analysis reveals very long-chain acyl-CoA dehydrogenase deficiency in a case of infant death with liver steatosis. Forensic Sci Int, 244:e34-e37, 2014)。 この経験に基づき、高度脂肪肝を伴う突然死例に対する、集約的検査に基づく死因究明プロトコールを作成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況;我々は、高熱発症後に抗生剤投与を受け、その後に高度脂肪肝を伴って死亡した症例に遭遇した。死後画像検査や病理組織学的検査から脂肪肝が明らかであったことから、1)イメージング質量分析による肝臓に蓄積している脂質の同定の試み、2)蓄積している脂質に関する情報に基づき、脂肪酸代謝関連酵素の遺伝子解析、3)死者の罹患疾患、服用薬物、体温、死亡前の症状等の情報収集等を実施し、遺伝子解析結果や生前情報の統合に基づき、脂肪酸代謝異常の原因を解明した。日本人にはカルニチンパルミトイル基転移酵素IIの熱感受性変異型が多いことが知られているが、この表現型では、温度上昇に伴い、カルニチンパルミトイル基転移酵素IIの活性が低下する。また、医療上の影響因子として、抗生物質の中には低カルニチン血症を誘発する薬剤が日本では認可されている。即ち、カルニチンパルミトイル基転移酵素IIに熱感受性変異を持つ患児がインフルエンザ等の高熱を伴う感染症に罹患した場合、使用される抗生物質によっては低カルニチン血症を招き、脂肪酸代謝が一層低下し、高度脂肪肝やエネルギークライシスが生じることが予想される。前記症例はこの推測に合致していた。同症例は公表済みである(Takahashi Y, Sano R, Kominato Y, Kubo R, Takahashi K, Nakajima T, Takeshita H, Ishige T. A case of sudden unexpected infant death involving a homozygotic twin with the thermolabile CPT2 variant, accompanied by rotavirus infection and treatment with an antibiotic containing pivalic acid. Leg Med.2016;22: 13-17)。以上より、日本人には遺伝的な分子基盤に加えて、不適当な薬剤の認可という医療の現状があり、そのために脂肪酸代謝の異常に基づく高度脂肪肝やエネルギークライシスが生じ易いと考えられる。
|