研究実績の概要 |
平成27年度に高度脂肪肝を伴う突然死例に対する、集約的検査に基づく死因究明プロトコールを作成した。そのプロトコールに基づき新たな実際例で死因究明を実施した。我々は、高熱発症後に抗生剤投与を受け、その後に高度脂肪肝を伴って死亡した症例に遭遇した。死後画像検査や病理組織学的検査から脂肪肝が明らかであったことから、1)イメージング質量分析による肝臓に蓄積している脂質の同定の試み2)蓄積している脂質に関する情報に基づき脂肪酸代謝関連酵素の遺伝子解析3)死者の罹患疾患、服用薬物、体温、死亡前の症状等の情報収集等を実施し遺伝子解析結果や生前情報に基づき、脂肪酸代謝異常の原因を解明した。日本人は、カルニチンパルミトイル基転移酵素IIの熱感受性変異型が多いことが知られており、この表現型では温度上昇に伴いカルニチンパルミトイル基転移酵素IIの活性が低下する。医療上の影響因子として抗生物質の中には低カルニチン血症を誘発する薬剤が日本では認可されている。即ち、カルニチンパルミトイル基転移酵素IIに熱感受性変異を持つ患児がインフルエンザ等の高熱を伴う感染症に罹患した場合、使用される抗生物質によっては低カルニチン血症を招き、脂肪酸代謝が一層低下し、高度脂肪肝やエネルギークライシスが生じることが予想される。前記症例はこの推測に合致していた。同症例は公表済みである(Takahashi Y, Sano R, Kominato Y, Kubo R, Takahashi K, Nakajima T, Takeshita H, Ishige T. Leg Med.2016;Sep;22:13-7)。以上より、日本人には遺伝学的な分子基盤に加えて不適当な薬剤の認可という医療の現状があり、そのために脂肪酸代謝の異常に基づく高度脂肪肝やエネルギークライシスが生じ易いと考えられる。
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