研究実績の概要 |
昨年度までの検討では、身長が低く腹部が突出する妊婦が自動車の後席に着座すると、肩ベルトが高い位置で走行し、頸部に接触していた。この状態で加害性を検討するために、ダミーを用いたスレッド試験を行った。使用したダミーは小柄な妊婦を模擬したMaternal Anthropometric Measurement Apparatus, ver. 2Bであり、頸部にシートベルトが接触した妊婦と身長がほぼ同じである。ダミーをシートに着座させると、シートベルトが頸部に接触する現象が確認できた。衝突速度29km/h(低速度) 及び48km/h(高速度)の前面バリア衝突条件で試験を行った。シートベルトが頸部に接触する条件でも、低速度で201.6m/s2、高速度で339.4m/s2の前方向の頭部加速度が確認され、国際的な自動車安全法規の許容範囲内であった。接触したシートベルトによって右側頸部が圧迫され、頭部に右から左方向への加速度が発生した。シートベルトが頸部にかかることから胸部の拘束が不十分となり、右胸部が前方に変位し、胸部と頸部が逆方向に変位する現象がみられた。ダミー頸部に圧力測定フィルムを貼ってシートベルトが頸部に直接接触する力を測定したところ、12.8 Mpa以上の圧が確認された。以上より、シートベルトの圧迫で頸部に強力な圧がかかること、頭部が左に変位し、胸部が右前に変位するという複雑な挙動が生じることがわかった。頸部の血管や神経の損傷あるいは頸椎捻挫用の損傷を生じる可能性が示唆された。後席シートベルトの着用が義務付けられているが、肩ベルトが頸部に接触した状態は危険である。このような状況を避けるためには、後部座席のショルダーベルトアンカーの位置を可変式にするか、乗員がブースターシート等で座面を高くすることが必要と考えられた。
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