研究課題
硫化水素は、火山ガスや有機物の分解で生じる腐敗ガスとして自然界に広く存在する。また、工業原料としても用いられているため、職業上の曝露事故もみられる。そのため、法医学領域でもしばしば事故などによる硫化水素中毒死事例を取り扱うことがある。硫化水素の影響を評価する上では、血液中の硫化物濃度を指標とした濃度測定が重要であるが、従来から測定には特殊な検出器や試料の前処理を必要とした。本研究で用いた硫化物測定装置(センサーガスクロマトグラフ)は、半導体センサーを検出器とする小型のガスクロマトグラフィーであり、特殊な操作を要しないことが特徴の一つとされ、環境分析などの領域で徐々に活用されはじめている。本研究では、センサーガスクロマトグラフの法医学的応用について検討した。環境分析と異なり、死体から採取した法医学試料を濃度検査に用いる場合、目的とする硫化水素以外にも生体成分として含まれている物質や、死後経過に伴って産生する物質による影響を考慮する必要があり、測定系を確立する際にも、水素やシアン化水素など、目的とする硫化水素以外の影響について検討した。結果として、これらのガスについては測定への直接の影響はなく、十分に定量性が得られることが明らかになり、簡便な気化平衡法による測定の有用性が明らかになった。硫化水素による死亡事例では、死斑が暗緑色を呈することが知られている。この色調は硫化水素が血液中でスルフォヘモグロビンを形成するためといわれているが、経皮的曝露の影響も示唆されている。そこで、ラットを用いた硫化水素中毒モデルを用いて、死斑の変色の機序について検討した。経皮的曝露に代えて、硫化ナトリウムを投与することにより、体内で硫化水素を産生させたが、死斑の色調は暗緑色にはならず、直接影響しないことが明らかになった。これらの結果から、間接的に経皮的曝露の影響が大きいことが示された。
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