研究実績の概要 |
われわれは入浴死の病態解明を目的として研究を進めており,平成27年度は実際の入浴死剖検例を対象とした免疫組織学的検討によって,肺における水輸送蛋白aquaporin(AQP)5並びに熱ショックタンパク質heat shock protein(HSP)70の発現変化が入浴中の溺死の診断マーカーとして有用となる可能性があることを報告した。そこで,平成28年度から剖検例での検討結果を裏付ける基礎的データを得るために,入浴死モデルマウスを作製して検討を開始しており,平成29年度は入浴死モデルマウスの肺における複数のAQP及びHSP mRNA発現の変化について検討を行った。 8週齢の雄性マウスを35,38,41℃に熱したホットプレート上に置き,直腸温が各温度に達した時点で,対照群は安楽死させ,溺死群は各温度に加温した蒸留水30ml/kgを気管内に注入した。肺におけるAQP1, 5及びHSPa1a, a5(HSP70ファミリー)のmRNA発現を検討した。AQP5発現は35℃及び38℃溺死群で,各対照群に比べ有意に低値を示したが,41℃では両群に差はみられなかった。AQP1発現はいずれの群でも変化はみられなかった。HSP1a1発現はいずれの温度の溺死群でも対照群に比べ有意に高値を示したが,38℃及び41℃では対照群でも有意な発現上昇がみられた。一方,HSPa5発現は35℃では両群に差はみられなかったが,38℃及び41℃溺死群では,各対照群に比べ有意に高値を示した。 38℃溺死群では,AQP5発現の低下,HSPa5発現の上昇という剖検例での検討を裏付ける結果が得られたことから,温水溺死診断のための指標となり得る可能性が示唆された。41℃溺死群でAQP5発現が低下しない原因としては,高温によるAQP5転写抑制の障害,あるいは逆に高温によるAQP5転写促進の可能性が考えられる。
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