本研究は、ダイビングに伴う加圧・減圧の影響による薬物の体内動態の変化の有無を評価する基礎研究である。生後約8週のBALB/cマウスに2g/kgのエタノールを腹腔内投与し+5気圧(水深50mの水圧に相当)の加圧・減圧負荷を加えて血中エタノール濃度を測定し、加圧・減圧負荷によるエタノール代謝の変化について評価を行った。実験群はA群「加圧状態で死亡させ、加圧時の薬物状態を観察する群」とB群「加圧・減圧後に規定時間生存させた後のエタノール代謝を観察する群」とし、それぞれコントロール群と比較した。 A群:エタノール投与後、速やかに加圧を開始して30分間+5気圧を維持した後、加圧槽に一酸化炭素を送気して死亡させた。その後、速やかに減圧して採血して分析を行った(n=5)。 B群:エタノール投与後、速やかに+5気圧に加圧して60分間加圧状態を維持した後、速やかに減圧して、大気圧下でエタノール投与後75分、90分、120分、180分、210分後で経時的に採血を行い、薬物分析を行った(n=5)。 A群では、加圧群の平均血中エタノール濃度は2.17mg/ml(SD±0.12)、コントロール群は2.13mg/ml(SD±0.09)であり、明らかな有意差を認めなかった。 B群では、加圧・減圧群の血中エタノール濃度には個体差があるものの平均値でみると、計測開始時点から直線的にエタノール代謝が進み、投与後180分では全例で0mg/mlとなり、コントロール群と有意差はなかった。一方、代謝が遷延しているような結果を示す個体もあり、加圧・減圧の影響を受けている可能性もある。今回負荷した+50気圧、60分間の加圧・減圧負荷は、加圧・減圧に強いマウスにとっては減圧症を発症する負荷とならなかった可能性がある。今後は、加圧時間の延長や頻回の加圧・減圧負荷を加えて加圧減圧に伴う薬物動態の変化を観察していきたい。
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