国内に自生するトリカブトの分子生物学的分析を行った。2倍体種(染色体数16)は、北海道、東北、北関東(ジョウシュウトリカブト、独立種と推定)および関東以南(サンヨウブシ)の地理的分布に従う4群に分類された。多数の種に分類されている4倍体種(同32)は、調べた7ローカスにおいて特定の種を同定できる変異が検出されなかっただけでなく、別種相互間で極めて高い近縁性を示していた。このことから形態的変異性に基づく現行のトリカブトの種分類は再検討を必要とするかもしれない。一方、核DNAのITSには地域(北海道、東北地方、中部・近畿地方、南日本等)特異的な塩基配列が複数存在し、DNA分析によるトリカブトの大まかな自生地推定に有用と思われた。 トリカブト塊根に含まれるアルカロイド主要4成分(ジテルペン系アルカロイド:アコニチン、メサコニチン、ヒパコニチンおよびジェサコニチン)の構成およびその濃度について分析した。最も毒性の強いジェサコニチンは北海道から関東北部の範囲で採取されたトリカブトで検出されたが、同地域内にこの成分を含まない個体も存在した。また、13DM(13-デオキシメサコニチン)のみが検出された個体、および2倍体種同様に無毒の4倍体種も少なからず存在した。塊根内の成分濃度やその比率から特定の種を推定することはできなかった。また、成分濃度は自生地土壌の調べた分析項目(腐食率、pH、各種イオン濃度)といずれも相関が見られなかった。塊根を異なる環境下の土壌に移植するとほぼ全例で発芽が観察され、半数以上が開花まで成長したが、その成長程度の差異は大きかった。移植前後の塊根について分析結果を比較したところ、成分構成あるいは無毒性はほぼ変わらなかったのでこれらの特徴は遺伝的な支配を受けていると推定された。一方、その成分濃度の違いは大きく、土壌を含めた全環境条件によって変化すると推定された。
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