研究実績の概要 |
2011~2015年の5年間に大阪市内で発生したすべての浴槽内事故につき救急・警察・介護と関わる機関からの協力を得て疫学調査を行った。浴槽内事故で救急搬送され助かった者は188例(男性111名、女性77名 平均年齢60.1歳)で、傷病名は熱中症48名、溺水140名。一方、浴槽内事故死亡者は2,063名(男性 236名、女性187名 平均年齢76.8歳)で、発生場所は自宅1,844名、公衆浴場136名、ホテル27名、老人ホーム24名、共同風呂14名であった。死因は虚血性心疾患807名、溺死341名、高血圧性心疾患296名、脳血管疾患155名、熱中症45名と様々であった。 介護保険施設等での入浴介護中の浴槽内事故は5年間に3件しかなく、いずれも意識障害を発症し急死したが、死因は病死で虚血性心疾患、てんかん、大動脈解離であった。老人ホームなどでの浴槽内事故も5年間に6名しかなく、いずれも一人入浴での死亡で、熱中症を否定できなかった。 42℃以上の湯に全身浴で浸かり続けると、30分で体温が3℃以上上昇し、誰もがⅢ度熱中症になりうる。また、気道確保されたラットでも41℃以上の全身浴で全例が死亡し、湯温に反比例して死亡時間が短縮されるとされる。42℃以上の深部体温では、心筋が崩壊し高カリウム血症、心室細動を引き起こす。今まで不可解とされた解剖所見も、熱中症発症のメカニズムで矛盾なく説明できる。 介護保険施設等での浴槽内事故は、入浴介護中の稀な致死的な病的発作以外は、老人ホームでの一人入浴中の事故であり、ほぼほぼ熱中症と考えられる。元気な高齢者に多い自宅での事故は、熱中症の可能性がより高まる。41℃以上の湯に30分以上全身浴で浸かり続けると誰もが事故に遭う可能性が高く、めったに救命されることはない。初めての熱い湯での長風呂が死につながりうる。
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