研究課題/領域番号 |
15K08884
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
大澤 資樹 東海大学, 医学部, 教授 (90213686)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 乳幼児突然死症候群 / 次世代シークエンサー / QT延長症 / ブルガタ症候群 / 遺伝カウンセリング |
研究実績の概要 |
チャイルド・デス・レビュー(CDR)とは、乳幼児を中心とした小児の突然死や事故に伴う外因死を様々な角度から検討し、再発予防を提言する社会制度である。今回の研究では、死因が十分に特定できず原因不明とせざるをえなかった突然死に対して、QT延長症などの遺伝性疾患に対して、次世代シークエンサーを用いた網羅的な解析を行い、死後遺伝学的検査をまず確立してゆく。その過程の中で、遺族への対応、倫理的配慮等の課題を抽出し、小児科医・遺伝学者・遺伝カウンセラーらとの共同作業を実践し、死後遺伝子診断を実行性のあるものに確立してゆくことを目的としている。現在までに、法医解剖となった予期されない小児の突然死例に対して、次世代シークエンサーを用いた網羅的な死後遺伝学的検査を実施した。その中で、1例に心筋症を発症する可能性のある変異をMYH7遺伝子に見出すことができた。さらに、この遺伝学的診断の中で、遺伝カウンセラーにグリーフケアを依頼し、臨床心理士が遺族の対応に当たる実際例を体験することができた。今後はその数を増やして、家族への包括的な対応ができる体制作りができるようにしてゆかなければならない。わが国における乳幼児死亡は、数的にも各国と比較して低いとはいえず、CDRの活動を通して虐待から託児中の急変など社会的に問題となる事例にどう対応してゆけばよいのか問題解決につなげる努力が求められている。米国ではCDRの実施体制が法的にも整備され、社会の中で定着している現状があり、わが国においても、制度として導入される必要があり、その一翼を担ってゆきたいと改めて考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
症例の収集およびその遺伝学的解析はおおむね順調に進行している。昨年度は平成28年3月に横浜で第22回SIDS乳幼児突然死予防学会を主催し、CDRに関するシンポジウムを開催できた。剖検事例から新たな変異を発見できたので、論文としてまとめる作業に入っている。本年度の実績としては、日本SIDS乳幼児突然死予防学会から示されている問診・チェックリストを利用して、乳幼児の急死例に対する疫学調査ができるように、学内の研究審査委員会から承認を得た上で、これまでの剖検例について統計をとっている。出生時体重、発育、異常の発見時刻、最終生存確認から異常発見までの時間、両親の喫煙といったSIDSで関心のある項目にある程度に法医学から報告ができるのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、次世代シークエンサーの解析方法は確実に実施できる段階にきており、他科からの解析依頼を引き受けるところまで、技術的には安定した結果を出せるようになっている。ただし、得られた変異の意味づけや疾患との関連付けに関しては、データベースとの参照で目星をつけているが、まだまだ確実な判定には至らず、個々の論文を調べてゆくという時間がかかる作業に追われている。今後は、いかに簡便で時間のかからない分析方法を工夫してゆく必要性を強く感じている。また、実務的には、家族対応について当大学医学部付属病院の遺伝診療室が来年度よりグリーフケア外来を開始することとなり、法医解剖例になり子供を失った家族親も対象としてカウンセリングや診療を受けられる予定である。今後は、臨床心理士や臨床医と協力して家族のサポートできる体制作りに努力してみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算を使い切るように努めたが、実験の進行の都合によりある程度の額が残ってしまった。やむをえないので、次年度にまわして使用したい。
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次年度使用額の使用計画 |
次世代シークエンサー使用には高額な試薬類が必要なので、消耗品購入の際に使用する計画である。
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