研究課題
本研究は、肝細胞を用いた危険ドラッグ代謝予測系の構築と代謝物データベース作成を目的としている。平成28年度には、麻薬のフェンタニル及びアセチルフェンタニルをモデル薬物として選定し、新しい肝細胞培養系によるこれらの薬物の代謝パターンを調べ、用いた培養系の危険ドラッグ代謝予測系としての有用性について検証した。用いた肝細胞は、いずれも最近開発された、ヒトiPS細胞由来肝細胞及びヒト肝臓キメラマウス由来肝細胞である。ヒトiPS細胞由来肝細胞によるフェンタニル及びアセチルフェンタニルの代謝パターンは、細胞のロット(肝細胞の元となるiPS細胞が同じであれば同一ロット、異なれば別ロット)毎に大きく異なっていた。これは、ヒトiPS細胞由来肝細胞におけるP450各分子種の活性パターンがロット毎に大きく異なることによる。ただし、いずれの場合も主代謝物は脱フェニルエチル体であった。この代謝物は、フェンタニルのin vivo主代謝物であることが知られており、ヒトiPS細胞由来肝細胞によりフェンタニルのin vivo代謝パターンがよく再現されることが確認された。ただし、P450以外の酵素が関与する反応については、ほとんど確認できなかった。一部の反応が起こりにくいものの、ヒトiPS細胞由来肝細胞は、安定供給が可能であり、また細胞が丈夫で扱いやすいといった特徴を有しており、薬物代謝予測研究における有用性が示唆された。一方、ヒト肝臓キメラマウス由来肝細胞では、抱合反応やO-メチル化反応など、ヒトiPS細胞由来肝細胞では確認できなかった代謝反応が効率よく起こることが確認された。ヒト肝臓キメラマウス由来肝細胞については、一部混入していると考えられるマウス細胞の代謝への寄与が不明である、といった問題はあるものの、広範な代謝反応の確認が可能であり、乱用薬物代謝予測における有効活用が大いに期待できるものであった。
2: おおむね順調に進展している
3年計画の2年目までに、肝細胞培養系の評価を行うことができ、計画は概ね順調に進んでいると言える。
引き続き、別の薬物について、これまで検討した培養系による代謝実験を行う。また、ヒト肝ミクロソームを用いた実験を行い、今回用いた薬物の代謝機構について明らかにするととともに、細胞培養系の実験結果についてより深く考察する。さらに、危険ドラッグ代謝物データベースを構築する。
本年度(平成28年度)の使用額は概ね計画通りであったが、初年度(平成27年度)の使用額がかなり少なかったために、次年度使用額が生じることとなった。
次年度は、高額な試薬を用いた実験、データベース作成用パソコン等の備品の購入、国際学会での発表を予定している。
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日本法科学技術学会誌
巻: 21 ページ: 139-147