研究実績の概要 |
肺内の食塊に対する異物反応は、嚥下性肺炎の病理学的診断の根拠となり、衰弱した高齢者にしばしばみられる。しかし、肺の異物反応が生体に及ぼす影響は検討されていない。 我々は、食塊の代表的な異物としてセルロースを用いた新しい誤嚥のマウスモデルを作製し、肺内の異物反応とその全身への影響を明らかにするための実験を実施した。まず、粒子径 0.02 mmのセルロースパウダーをPBSに100mg/mlおよび10mg/mlになるように懸濁し、オートクレーブ滅菌したものを用意した。ケタミンとキシラジンの腹腔内投与にて深麻酔したマウスの気管切開を施行し、0.1mg/g BWおよび 0.01mg/g BW のセルロースを経気管的にC57BL/6jマウス肺内に投与した。まず、各濃度のセルロースおよびコントロールとしてのPBS投与5時間後, 24時間後, 7日後に気管支肺胞洗浄液 (BALF) 中の細胞数と細胞分画を評価した。その結果、0.1mg/g BW の投与により、24時間後のBALF中細胞数および好中球数は顕著に上昇し、7日後には、特に好中球数はコントロールと同じレベルとなった。また、同時に肺を摘出し、25 cmH2Oの一定圧で伸展固定した肺の組織像を評価した。ファンギーフローラ染色にてセルロースの気管支、細気管支、肺胞腔内への沈着を確認できた。7日後には、細気管支に沈着したセルロースを類上皮細胞が囲み、器質化肺炎の像を呈している部分も観察された。続いて、セルロース投与と同時、もしくは24時間後、7日後、30日後に黄色ブドウ球菌を経気管的に肺内に接種し黄色ブドウ球菌性肺炎モデルを作成し、それぞれ24時間後に肺内の菌数を評価したところ、30日後の群を除いて、セルロースによる異物誤嚥のあるマウスで、残存する菌数が有意に多かった。
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今後の研究の推進方策 |
現在、食塊誤嚥モデルでのサイトカイン動態の解析をすすめている。すなわち、同モデルマウスのRNAを抽出し逆転写後、real-time PCRにより、CCL-2, IL-8, IL-6, IL-10, TGFbeta;, IFNgamma;, TNF-alphaの発現を評価する。さらに、 BALF中の上記サイトカインやIL1betaの蛋白濃度をELISA法により評価する。また、セルロースパウダーの直接的な作用を評価するために、A549肺腺癌培養細胞にセルロースパウダーを投与したときの上記サイトカインの発現を、real-time PCRにより評価しており、まもなく結果を示すことができる。 また、当初の計画とおり、誤嚥性肺炎の治療では、適切な抗生物質の使用にも関わらず炎症所見の低下が遅い例も多い。3のモデルの作製1時間後にオキサシリン 400 mg/kg を腹腔内注射する群と生食のみ腹腔内注射する群を作製し、生存曲線および肺炎発症24時間後と72時間後の肺内の菌量を測定する。 さらに、当初の計画を進展させて、IL-10 や IFNgammaは、インフルエンザウイルス感染回復期の易感染性に関わることが報告されており、それぞれの遺伝子欠損マウスでは、その易感染性が改善している。肺の異物反応においても、皮下での異物反応と同様のサイトカイン動態が認められれば、IL-10欠損マウスやIFNgamma欠損マウスを用いて、セルロース投与群と非投与群の細菌性肺炎モデルにおける肺内の細菌数を比較する。それぞれのマウスはジャクソン研究所より購入可能である。そのほか、それぞれの中和抗体の腹腔内投与が、IL-10やIFNgammaの機能の抑制に利用されており、本研究でもその影響を評価する。
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