研究課題/領域番号 |
15K08918
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
大迫 洋治 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 准教授 (40335922)
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研究分担者 |
由利 和也 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 教授 (10220534)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プレーリーハタネズミ / 絆 |
研究実績の概要 |
前年度において、パートナー維持群とロス群間で炎症性疼痛時のペインマトリックスにおいてFos発現に差が検出された。しかし、脳や脊髄におけるFos蛋白は、痛み以外の様々な刺激によっても発現することから、パートナーロス(絆形成後におけるパートナーとの別離)というストレス刺激そのものに反応して脳内のFosが発現している可能性がある。今年度は、パートナー維持群とロス群それぞれにおいて痛み刺激なし群(コントロール群)のペインマトリックスでのFos蛋白の発現をでも前年度と同様に解析し、炎症性疼痛誘発時(ペイン群)におけるFos発現比(ペイン群/コントロール群)を維持群・ロス群間で比較解析を行った。その結果,前頭前野,帯状回,側坐核殻部においては、維持群がロス群より有意にFos発現が高かった。また、島においてはロス群が維持群よりFos発現が有意に高かった。さらに、脊髄後角ニューロンにおけるFos発現についても解析を行った。その結果、浅層(I-II層)・深層(V-VI層)ともに炎症側で著しいc-Fos発現がみられ、さらに炎症側/非炎症側値において浅層・深層ともロス群が維持群より有意に高かった。今年度は、痛み刺激を入れないコントロール群のFos発現と比較することで、前年度にすでに差が検出されていた前頭前野と側坐核に加えて、新たに、島でのFos発現の差を検出することができた。島は不快情動に関与する領域であることが知られており、ロス群では痛みに付随する不快反応が維持群に比べて亢進している可能性が示唆された。前年度からの結果と考え合わせると、雌雄間で強い絆を形成するプレーリーハタネズミにおいて、パートナーとの離別により,痛み刺激に対する脊髄後角ニューロンの反応性の亢進と同時に,快情動に関与する側坐核の反応性の低下および不快情動に関与する島の反応性が亢進することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の結果より、雌雄間で強い絆を形成するプレーリーハタネズミにおいて,パートナーとの離別により,脊髄後角ニューロンの反応性の亢進と同時に,不快情動に関与する島の反応性の亢進および快情動に関与する側坐核の反応性が低下することが示唆された。前年度の解析に加えて、パートナーロスストレスそのものによるFos発現を解析したことにより、痛み刺激に対するペインマトリックスの反応性をFos発現比(ペイン群/コントロール群)として抽出することができ、より正確な解析を行うことができた。このことにより、前年度まで検出できなかったロス群における島皮質の反応性の亢進を新たに明らかにすることができた。さらに、脊髄後角においては、炎症側/非炎症側値を算出し解析することにより、痛み刺激に対するパートナーロスによる痛み刺激に対する反応性の亢進を検出でき、これらのデータは、前年度に検出したパートナーロスに伴う情動行動および痛み行動の増悪を支持するものである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の脊髄後角におけるFos発現では、炎症側におけるFos発現ニューロン数に維持群・ロス群間で有意な差は検出されなかったが、炎症側/非炎症側値において浅層・深層ともロス群が維持群より有意に高かった。これは、非炎症側におけるFos発現ニューロン数が維持群よりロス群で少なかったことによるが、非炎症側には痛み刺激が入力していないことから、脳幹から両側に投射している下行性疼痛抑制系による抑制性介在ニューロンの興奮をFos発現として捉えている可能性が考えられる。抑制性介在ニューロンはγアミノ酪酸(GABA)作動性ニューロンであることが明らかになっているので、来年度は、GABA産生酵素GAD67の抗体による免疫組織化学的染色法により抑制性介在ニューロンを検出したうえで、それらのFos発現を維持群・ロス群間で比較解析を行う。また、前年度に引き続き、今年度も中脳皮質辺縁系ドパミン回路における主なドパミン産生領域である腹側被蓋野でのドパミンニューロンの痛み刺激に対する活性をFos以外の最初期遺伝子群のひとつであるERKの発現を指標として解析を試みたが、ドパミンニューロンマーカーとの二重免疫組織化学染色において、総ドパミンニューロンの1-2%しかERKを共発現していなかった。この結果から、Fosと同様、痛み刺激に対するドパミンニューロンの活性をERKでも解析することができなかった。腹側被蓋野ドパミンニューロンの活動は、腹側被蓋野に豊富に存在するGABA抑制性介在ニューロンによりその活動を調節されることが知られている。そこで、来年度は、腹側被蓋野における抑制性介在ニューロンの活性度をGABA産生酵素GAD67の抗体による免疫組織化学的染色法により解析し、ドパミンニューロンの活性度を間接的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に用いるプレーリーハタネズミは自家繁殖している。自家繁殖匹数が予定より少なかったため、飼育代が予算額より下回った。参加予定であった国際学会に都合がつかず参加できなかったため、その旅費を次年度へ繰り越した。論文作成および投稿が次年度になったため、その英文校正費および掲載料を次年度の請求のために繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度繰り越した費用の一部は、当初計画していなかったGABA産生酵素GAD67の抗体の購入費に充てる。プレーリーハタネズミをエンリッチメント環境下で飼育しているが、そのエンリットメント環境作製用のドームが、オートクレーブ滅菌の繰り返しにより劣化破損してきたので、新規ドームの購入費に充てる。
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