研究課題/領域番号 |
15K08919
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
前田 豊樹 九州大学, 大学病院, 准教授 (30264112)
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研究分担者 |
小柳 雅孔 九州大学, 大学病院, 助教 (00325474) [辞退]
堀内 孝彦 九州大学, 大学病院, 教授 (90219212)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 老化 / テロメア / DNA |
研究実績の概要 |
これまで、体細胞レベルでの老化にともなうゲノムDNAの変容を、テロメア関連のDNA変化を様々な形で検出して、種々の病態が個体の老化に及ぼす影響を探ってきた。我々は、温泉地別府に立地する地の利を生かし、温泉による抗老化効果を、このテロメアの変化で立証出来るのではないかという仮説を持っている。この試みの中で、温泉浴治療を受ける患者群で末梢血白血球のテロメア長の解析から、体細胞レベルでの長寿化が起こっていると思われる知見を得てきた。われわれは、仮にこれを「細胞レベルでのスーパーエイジング」とよんでいるが、今年度は、温熱条件に曝されたヒトの末梢血白血球のテロメア周辺のメチル化を解析することで、テロメアの様態が若年と老年の両面の性質を併せ持つことを観察している。すなわち、スーパーエイジングでは、老細胞に見られる短テロメアの割合が低いという性質と幼弱細胞に見られる長テロメア近傍領域のメチル化も低く保たれているという性質が、入り交じった状態で観察されることを確認した。このことは、血清中の細胞外テロメア量が低いレベルに抑えられることでさらに裏付けられると推定しているが、下述のごとく、定量性が満足のいくレベルに達しておらず、現在更なる検討を加えている。げっ歯類を用いた動物実験でも、血清テロメアDNAが充分活用できるレベルではないが、げっ歯類は、種類によってテロメア長が長くヒトでの解析法が使用できないことやテロメラーゼ活性を有しもともとテロメア長が検討しにくいという特徴があるため、テロメラーゼ活性やテロメア結合蛋白の解析を主に行い、カロリー制限やポリフェノール投与などの抗老化効果を報告したが、これも血清テロメアDNA検出ができればより直接的に抗老化の程度を定量的に捉えられるはずで、鋭意この検出法の開発を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
臨床検体における血清中テロメア検出ならびに培養実験における上清のそれのいずれにおいても、予想外に定量性に問題が生じており、これに対処するため時間を取られている。一方、細胞側の短テロメア領域の変化については、ほぼ確実に細胞集団の中の老細胞群の変化を捉えていると考えられ、さらに長いテロメアのメチル化も同時に見られるという老若相反する知見から、スーパーエイジングの検出と評価が可能になっており、現時点では、細胞の長寿化が見込まれる温熱治療を受けた患者を中心に臨床検体についての解析を進め、この温熱によるスーパーエイジング現象の再確認を行い論文報告の準備を進めている。できれば、これに血清内テロメアDNAの知見が加えられれば、ス-パーエイジングの実態を捉えて、その存在を証明したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
テロメアDNA長と分布変化とテロメア近傍領域のメチル化の詳細な検討により、スーパーエイジングという細胞に好適な状況が温熱条件下でもたらされることを示せつつあるので、培養実験でも、細胞外テロメア検出に執着し過ぎずに細胞内のテロメアの知見を固めていく。その過程で細胞外テロメアの定量的検出法が確立すれば、その時点で、データを加えていく方針とする。細胞外テロメアDNAの検出における定量性の問題は、もともと微量であるため検出誤差が生じやすいことは周知しており、定量PCRの変法で増幅を図っていた。概ね一定の結果が出ている様に見えても、有意差がなかったり、予想と逆の結果が出てしまっており、一定の傾向に収束しない場合が多いことがわかってきた。また、培養上清の場合は、上清に死滅細胞が蓄積していくため、上清内DNAは、細胞老化の逐次経時変化ではなく、その累積変化を見ることになるため、累積量をいわば微分して経時変化に置き換えなければならず、有意な変化が捉えにくくなっている。DNA回収手順を最小限にすることで検出出量の揺らぎを最小化できると考え,ドットハイブリのような、材料を直接固層へ固定した上で増幅する手だてで打開を図っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験条件を見直す必要が出てきており、実験計画が多少遅延しているため、費用が予定を下回ったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
直接経費見込み額を125万円、内訳は物品費50万円、旅費50万円、その他25万円として計画している。
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