研究課題/領域番号 |
15K08930
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
清原 寛章 北里大学, 感染制御科学府, 教授 (70161601)
|
研究分担者 |
永井 隆之 北里大学, 感染制御科学府, 准教授 (00172487)
丸山 弘子 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (50129269)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 八味丸 / 糖尿病 / 肺粘膜免疫系 |
研究実績の概要 |
昨年度までの検討で毒性型ストレプトゾトシン誘発高血糖マウスおよび自己免疫型ストレプトゾトシン誘発高血糖マウスへの八味丸の投与でリンパ球上のアンジオテンシンII受容体タイプ1 (AT1a)が発現増強し、本増強が八味丸の肺免疫異常に対する作用に関与する可能性が推定された。そこで、AT1a受容体発現の変化したリンパ球の機能変化を解析することを目的に、健常なC57BL/6マウスに1-3週間八味丸を投与することによる脾臓リンパ球のAT1a受容体および制御性Tリンパ球マスター分子(Foxp3)のmRNA発現変化を解析したが、用いた投与期間でのこれらの分子mRNAの八味丸投与による有意な発現増強は認められず、AT1a受容体の発現変化には高血糖の環境圧力が必要であることが強く示唆された。一方、高血糖マウスへの八味丸投与によるAT1a受容体の発現増強の病態への影響について検討を行うことを目的に、毒性型高血糖モデルマウスへ八味丸、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤、カプトプリル)もしくはAT1a受容体阻害剤(ARB、テルミサルタン)の単独投与、および八味丸とこれらの阻害剤の2剤併用による肺粘膜免疫系の変化について解析を行った。その結果、ACE阻害剤と八味丸の併用投与群で肺でのIgG抗体価の有意な増強は観察されたが、ARBとの併用では大きな変化は認められなかった。また、Bリンパ球やTリンパ球の肺への移送については併用による大きな変化は認められなかった。これに対し、肺組織での制御性Tリンパ球のマスター分子(Foxp3)のmRNA発現はこれらの薬剤の単独投与群に比べ、八味丸との2剤併用群のいずれにおいても有意な発現上昇が認められ、アンジオテンシン系と制御性免疫機能との間に何らかの関係がある可能性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
リンパ球上のAT1a受容体の機能解析を目的に八味丸投与によりAT1a受容体の発現が上昇したリンパ球を調製する方法の構築を試みたが、健常マウスではAT1a受容体発現上昇リンパ球を誘導できないことが示唆されてしまった。また、リンパ球上のAT1a受容体の機能を探る別の手法としてACE阻害剤やARBと八味丸との併用での検討を行い、本検討ではACE阻害剤やARBの共存による肺粘膜免疫系の大きな負の変化を期待したが、逆に制御性リンパ球の誘導促進が観察され、併用による正の効果として現れてしまい、他の手法を探索する必要が示唆されたため。
|
今後の研究の推進方策 |
AT1a受容体発現が上昇したリンパ球の調製を行うため、ストレプトゾトシン処置による高血糖条件下で、AT1a受容体の発現上昇が起こる八味丸の投与による投与期間を探索し、適正条件で誘導したリンパ球を用い、本リンパ球の機能の解析を行う。また、前年度までにその可能性を推定した制御性機能を有するマクロファージの八味丸による誘導増強について解析するため、poly(I:C)の肺接種により惹起される肺局所での炎症病態について八味丸投与による影響の検討を行う。また、肺胞上皮細胞は先天性免疫機能分子としてサーファクタントタンパクやβ-デフェンシン類以外にラクトフェリン、補体第1および第3成分(C1、C3)、フィコリン、C-reactive protein (CRP)やSplunc1などを産生分泌していることから、これらの防御免疫分子の高血糖における発現変化と八味丸投与の影響について解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
1回の動物実験で得られた生体試料の分析が多岐にわたるため、解析に時間を要し、また、前年度までに購入した試薬を利用したため予算の使用が大幅に低く抑えられる結果となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度ではAT1a受容体の発現増強が起こるための最短の投与期間を設定する検討を行うことから動物実験の回数が増えると考えられる。さらに脾臓リンパ球の培養、培養上清中の複数の炎症性サイトカイン量のELISAキットを用いた検討を行う予定であることから相当額の研究費が必要となる。さらに、poly(I:C)の肺接種モデルマウスの肺炎の分析に、定量PCR、気管支肺胞洗浄液中の炎症性サイトカインやケモカインのELISAを予定しているため、本実験にも相当額の研究費の使用を予定している。
|