研究課題
【FGF2、FGFR阻害剤がESCC癌幹細胞に及ぼす影響】①癌幹細胞であるCD44High/CD24Low細胞を分離すると、FGF2の発現が有意に亢進していた。②FGF2を添加するとCD44High/CD24Low細胞は有意に増加し、逆にFGFR阻害剤を添加するとCD44High/CD24Low細胞は有意に減少した。③CD44High/CD24Low細胞の増減に一致して、FGF2の添加によりコロニー形成能は有意に増加した。逆にFGFR阻害剤であるAZD4547はコロニー形成を著明に抑制した。これらの結果は、ESCCにおいてはFGF2及びFGFRが癌幹細胞の制御において重要な役割を担っていることを示唆している。【ESCC癌幹細胞におけるFGF2-FGFR経路】FGF2-FGFR経路の下流の解析を行い、以下の結果が得られた。①FGF2添加により下流のAkt、Erkのリン酸化が亢進し、逆にAZD阻害剤によりAkt、Erkのリン酸化は有意に抑制された。②Akt阻害剤ではCD44High/CD24Low細胞は抑制されなかったが、MEK阻害剤を用いることでCD44High/CD24Low細胞は抑制された。③RASに変異を有する細胞株ではFGFR阻害剤を用いてもCD44High/CD24Low細胞を抑制できなかった。これらの結果は、FGF2-FGFR経路の中でも下流のRAS-MAPK経路がESCC癌幹細胞の制御において重要であることを示唆している。【ESCC癌幹細胞における各FGFR isoformの役割】FGFRにはFGFR1~FGFR4のisofomrがあり、さらに各々のisoformでsplicing variantが存在する。ESCC癌幹細胞にける各FGFRの役割に関して、以下の結果が得られた。①各FGFRに特異的なプライマーを設計し、real time PCRにてmRNA発現を解析した。間葉系のESCC癌幹細胞であるCD44High/CD24Low細胞ではFGFR1cが、上皮系の非癌幹細胞においてはFGFR2bの発現が著明に亢進していた。②FGFR2をsiRNAでノックダウンすることで、ESCC癌幹細胞であるCD44High/CD24Low細胞は有意に増加した。これらの結果はESCC癌幹細胞においてFGFR2が重要な役割を担っていることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
FGFRの下流シグナルを含めた詳細な解析が行えた点は、当初の計画以上に本プロジェクトが順調に進んでいることを示している。ただ、予定していた3次元培養を用いた解析が行えなかったため、「おおむね順調に進展している」と評価した。平成27年度に得られた多くの結果は、FGFR阻害剤、MEK阻害剤がESCC癌幹細胞を標的とした新規治療法になり得ることを強く支持するものである。
平成28年度は3次元培養系、動物実験系を主に用いて以下の通り解析を遂行していく。【3次元培養】複数のESCC細胞株TE8、TE11、EPC2-T、OKF6-Tを用いて3次元培養(Nat Protoc. 7;235:2012)を行う。腫瘍細胞をフィーダーの線維芽細胞、Ⅰ型コラーゲン、マトリジェル等から形成されるマトリックス上に蒔いた2日後よりFGF受容体阻害剤を添加する。FGF受容体阻害剤添加7日後に以下の項目に関してサンプルを解析する。①3次元培養組織から腫瘍細胞のみを分離し、癌幹細胞表面マーカー、ALDH活性をFACSにより解析する。②3次元培養組織を用いて癌幹細胞表面マーカー(CD24、CD44)、FGF受容体のリン酸化を免疫組織染色で評価する。また、腫瘍増殖をKi67染色、アポトーシスをTunel染色により評価する。【FGF受容体阻害剤のESCC癌幹細胞に対する有効性の検討(in vivo)】ESCC細胞株TE8をヌードマウスへ皮下移植する。移植2週間後よりFGF受容体阻害剤を投与する。また、ESCCに対して現在臨床で使用されている抗癌剤(5FU、CDDP)との併用投与も行う。移植6~8週後にマウスをと殺し、以下の項目を評価する。①腫瘍サイズの経時的変化を測定。②FGF受容体活性をリン酸化抗体を用いて免疫染色により評価し、阻害剤の効果を確認する。③腫瘍の病理学的悪性度(分化度、浸潤傾向)を評価する。④腫瘍細胞を分離し(マウス由来の細胞は抗H2k[d]抗体、死細胞は7AADを用いて除外する)、CD24Low/CD44High細胞の割合をFACSにより測定する。⑤FGF受容体阻害剤が、5FU、CDDDPの抗癌剤感受性に与える影響を腫瘍サイズ、CD24Low/CD44High細胞の割合で評価する。癌幹細胞が抑制されることで、腫瘍増殖の抑制、抗癌剤感受性の回復が期待される。
消耗品購入額が当初予算よりも安価であったため、89078円の次年度繰越金が生じた。
消耗品(細胞培養試薬)に使用する計画である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件)
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