In vitroの実験系で複数の細胞株、阻害剤を用いてFGF阻害剤が食道扁平上皮癌(ESCC)癌幹細胞に及ぼす影響を検討した。ESCC細胞株はTE8、HCE4、T-TeRAS細胞を用い、FGF阻害剤はAZD4547、BGJ398、SU5402を用いた。何れの阻害剤もTE8、HCE4においてはCD44High/CD24Low癌幹細胞を有意に抑制したが、RAS変異体であるT-TeRAS細胞には無効であった。この結果からFGFシグナルの下流においてRAS/MEK/ERK経路がCD44High/CD24Low癌幹細胞の制御において重要であることが示唆された。MEK阻害剤を用いることでT-TeRAS細胞においてもCD44High/CD24Low癌幹細胞は有意に抑制された。逆に、EGF経路の下流であるAKT経路を阻害しても、何れの細胞株においてもCD44High/CD24Low癌幹細胞は抑制されなかった。これらの結果からCD44High/CD24Low癌幹細胞はFGFR/RAS/MEK/ERK経路により制御されていることが明らかになった。 TE8、T-TeRAS細胞を用いた動物実験においてもAZD4547はTE8細胞の腫瘍増殖を抑制したが、T-TeRAS細胞には無効であった。一方で、MEK阻害剤であるtrametinibはTE8細胞およびT-TeRAS細胞何れの腫瘍増殖も有意に抑制した。重要なことに、trametinibにより腫瘍細胞の上皮系マーカーであるE-cadherinの発現が増強し、間葉系マーカーであるvimentinの発現は抑制されていた。In vitroでの結果と同様に、動物実験においてもCD44High/CD24Low癌幹細胞は抑制され、MET(mesenchymal-epithelial transition)が生じることで腫瘍増殖が抑制された。
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