食道潰瘍の治癒がバレット食道発生に与える影響について検討した。まず、ヒト不死化食道線維芽細胞株BEF-hTを用いてcollagen base contraction assayにて酸性胆汁酸の刺激により組織収縮がコントロール群(無刺激群)と比較し有意に促進されたが、一酸化窒素(NO)にてこの収縮がコントロール群と同程度まで抑制された。しかし酸性胆汁酸やNO刺激で線維芽細胞におけるalpha-smooth muscle actin(a-SMA)の発現は変化を認めなかった。細胞生存度を評価したが刺激による細胞傷害度に有意差を認めなかった。NOによる組織収縮抑制のメカニズムを解明するためにRhoA活性を免疫沈降法を用いて測定した。胆汁酸刺激ではRhoAの活性型であるGTP-RhoA発現の上昇をみとめたが、NO刺激では明らかな変化を認めなかった。同刺激を6日間連続で長期投与した結果は酸性胆汁酸、NO刺激ともにGTP-RhoA発現の低下を認め、さらにNOと酸性胆汁酸刺激の同時刺激で更なる活性低下を認めた。 ラットを用いた食道潰瘍モデルを用いて、食道内腔でNOを発生させる実験系を構築し、食道潰瘍の治癒と食道上皮における円柱上皮化を検討した。8週間後の食道潰瘍の治癒は両群で有意差を認めなかったが、NO群で食道潰瘍部は円柱上皮化を有意に認めた。さらに同群の粘膜下層でa-SMA 発現の低下を認めた。本研究で食道内腔で発生したNOは組織収縮を抑制することで食道潰瘍の創傷治癒を遅延し、正常な扁平上皮による潰瘍被覆を阻害した。食道潰瘍が治癒阻害が同部位における円柱上皮化を促進する結果となった。
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