研究課題
①研究遂行に必要なバイオリソースの収集と作製食道扁平上皮癌(ESCC)手術切除症例に関し、免疫組織染色用標本作成(168例)とRNA抽出(6例)を行った。次に公共データベース(TCGAなど)で癌特異的発現変動変化のあるRNA結合蛋白質(RBP)リストを作成した。これらのうち3種類のRBPについて免疫組織染色を行い、ESCCで発現が変動していることを確認した。また、ESCC細胞株パネル(44種類)を用いて、mRNA発現および蛋白質発現量を検討した。②癌促進型RBP分子が関わるRiboCluster内関連分子の網羅的同定と意義の解明①で同定したRBPのうち、ESCCで発現が亢進しているRBP(癌促進型RBP)としてTIA1に着目して検討を行った。免疫組織染色で、TIA1はESCCの進展に伴い発現が増加するだけでなく、局在が細胞質優位に変化した。また、細胞質におけるTIA1の発現量は予後と負に相関した。ESCC細胞でTIA1をノックダウンすると、細胞周期がG0/G1期で停止し、足場依存性および足場非依存性増殖が有意に抑制された。TIA1は、2種類のアイソフォーム(TIA1a、TIA1b)があることが知られている。ESCCで見られた細胞質への局在とこれに伴う細胞増殖促進作用はTIA1aに特異的で、TIA1bを強制発現すると細胞死が誘導された。免疫沈降でTIA1と結合するmRNA群を網羅的に解析し、CCNA2、SKP2などの細胞周期制御因子のmRNAを同定した。さらにTIA1はこれらのmRNAの非翻訳領域に結合し、mRNAを安定化(SKP2)または翻訳を促進(CCNA2)することで、これらの蛋白質量を調整することを明らかにした。以上の結果を誌上報告(Oncotarget)するとともに、プレスリリースを行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度に計画していた「研究遂行に必要なバイオリソースの収集と作製」として、ESCC臨床検体バンキングおよび臨床情報のデータベース化が終了し、同定したRBPのうちTIA1に関して、細胞解析用のツールとして最適な細胞株の選択と安定発現細胞株の樹立が終了した。また、TIA1関連分子として複数の細胞周期制御mRNAを同定し、TIA1による発現制御機構の一部を明らかにすることができた。これらの結果をまとめて、学会発表および誌上発表を行っており、おおむね順調に進展していると考えられる。
RBPの蛋白発現の亢進と局在の変化が、その標的RNAや相互作用する分子の変化に関わることからその背景にある分子機序と、ESCCの進展における意義を解明することを目的とし、以下の研究を行う予定にしている。a)癌促進型RBPのプロモーター領域に関し、細胞株・臨床検体での変異やメチル化状態(cis)や細胞株における発現状況とレポーターコンストラクトによる転写誘導活性の検討(trans)、ならびに臨床検体での候補転写因子の発現を検討する。b)癌促進型RBPの細胞内局在には、isoformの違いやリン酸化修飾が関与することを示唆する結果を予備実験で得ている。特に後者は、キナーゼ阻害剤など特異的修飾活性阻害による治療の可能性に繋がることから、(1) Phos-Tagでのリン酸化蛋白濃縮後の質量分析によるリン酸化部位の同定、(2)同定部位の変異体作製及び阻害剤によるリン酸化・脱リン酸化酵素の推定、(3)候補酵素の導入による局在変化の検討、(4)特に活性化型キナーゼの特異抗体を用いた免疫染色による臨床検体での活性と癌促進型RBPの局在との関連を評価し、治療標的としての妥当性を検討する。
本年度に実施予定であった次世代シーケンサーを用いた検討が、当初予定していたよりも安価で実施できた。また、実施予定としていた質量分析を用いた解析を行わなかったことから、その他の項目(施設使用費)で差額が生じた。さらに、情報収集目的に参加予定であった学会への出席を取りやめたため、旅費で差額が生じた。
次年度は、本年度に実施予定であった質量分析を用いた検討を行うため、本年度未使用であった助成金と次年度分として請求した助成金を合わせて使用する。また、新たなRBPについて、次世代シーケンサーを用いた検討を行うため、これを使用する予定としている。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) 備考 (4件)
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