研究課題
前年度までの検討から、食道扁平上皮癌(ESCC)で、1. 細胞質におけるTIA1の発現量が予後と負に相関すること、2. TIA1の細胞質への局在とこれに伴う細胞増殖促進作用はTIA1aアイソフォームに特異的であることを見いだした。本年度は、その背景にある分子機序と、ESCCの進展における意義を解明するため、以下の研究を行った。1. 公共データベース(TCGAなど)を用いて、TIA1のプロモーター領域に関して検討を行った。DNA配列情報から、ESCC(225例)でTIA1プロモーター領域での変異は認められなかった。次に、DNAメチル化プロファイル情報から、ESCC(194例)でTIA1のプロモーター領域は全般的に低メチル化状態にあり、TIA1発現量との間に有意な相関は認められなかった。以上の結果から、食道扁平上皮癌におけるTIA1発現異常はプロモーター領域の変異やメチル化状態(cis)によるものではなく、転写誘導因子の発現異常や機能異常(trans)によることが示唆された。2. TIA1aの細胞内局在制御機構について、リン酸化修飾に着目し検討を行った。ESCC細胞で細胞質TIA1aは、核内TIA1aに比べてリン酸化修飾を受けていた。TIA1aのSer、ThrをAlaに置換した変異体を作成し、細胞内局在を蛍光細胞染色を用いて検討したところ、複数の部位でTIA1aの局在が細胞質優位から核優位に変化した。また、同変異体を過剰発現した細胞で細胞増殖が抑制されることから、TIA1aの癌促進機能は自身のリン酸化によって制御されていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度癌促進型RBPとして同定したTIA1に関して、本年度に計画していた「癌促進型RBPの蛋白発現量と細胞内局在制御機構の解明」について、1) その発現異常がプロモーター領域の変異やDNAメチル化状態によって制御されていないこと、2) 細胞内局在と細胞増殖誘導能がリン酸化によって制御されていることを見いだし、TIA1に内在する癌促進機能制御機構の一部を明らかにすることができた。これらの結果をまとめて、学会発表を行うとともに誌上発表の準備をすすめており、おおむね順調に進展していると考えられる。
本年度の研究をさらに推し進めて、癌促進型RBP発現異常の背景にある分子機序と、ESCCの進展における意義を解明することを目的とし、以下の研究を行う予定にしている。a) TIA1抗体で免疫沈降を行い、TIA1と結合する蛋白質を質量分析で同定し、TIA1のリン酸化修飾に関与するキナーゼを同定する。さらに変異体を用いてリン酸化部位の同定を行い、候補酵素の導入による局在変化の検討、さらに活性化型キナーゼの特異抗体を用いた免疫染色による臨床検体での活性とTIA1の局在との関連を評価し、治療標的としての妥当性を検討する。b) 癌促進型RBPは、miRNAや他のRBPと、調節標的mRNA上で競合的または相補的に機能することで標的転写産物の発現を制御していることから、平成28年度に同定したTIA1の標的mRNAに関して、ビオチン化したRNAプローブを作成し、TIA1との結合領域をビオチンプルダウン法で決定する。さらに結合配列予測データベース(miRBase、CISBP-RNAなど)を用いて、相互作用するmiRNAや他のRBPを予測し、可能性の高い相互作用分子を同定する。c) b)で得られたmiRNAに関し、mimicするRNAやターゲット配列への結合を阻害するTarget Site Blockerを細胞に導入して、癌促進型RBPの癌細胞に対する作用への効果を評価する。一方、相互作用蛋白は、結合アミノ酸配列を阻害する細胞膜透過型合成ペプチドを細胞に導入し、同様に癌細胞への効果を評価する。これらを総合し、ESCCに対する新規RNA創薬やペプチド創薬の治療標的としての妥当性を検討する。
本年度に実施予定であった質量分析を用いた検討が、当初予定していたよりも安価で実施できた。また、公共データベースを用いた検討を行うことで、当初予定していた次世代シーケンサー解析を補完するデータを得ることができ、解析検体数が削減できた。
次年度は、TIA1の機能を制御するキナーゼを同定するために質量分析を行うとともに、低分子ペプチドの合成やキナーゼ阻害剤スクリーニングを行うために、本年度未使用であった助成金と次年度分として請求した助成金を合わせて使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) 備考 (3件)
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