研究課題
魚の生食を嗜好する我が国において、アニサキス症は重要な寄生虫感染であり、治療は専ら内視鏡下による摘出である。また、食品衛生法によりアニサキス症は保健所への届出が義務づけられている。胃アニサキス症のように劇症化するケースの他に、内視鏡検査で偶然見つかる無症候型の寄生例も知られているが、劇症化と無症候型を規定する要因は不明である。これまで、アニサキス症劇症化の原因が、アニサキス種の違いによるという考えと、宿主側(患者側)の感受性によるという考えがあるが決定的な証拠はない。そこで本研究では、劇症型アニサキス症の原因を明らかにする。これまで、アニサキス症の発症や病態形成に関する研究は、日本海側のサバにはA.pegreffiiが、太平洋側のサバにはA. simplex ssが寄生するといった寄生する種の違いとその水揚げ地により考察されることが多く、実際のアニサキス症患者や無症候型アニサキス感染者から摘出されたアニサキスの種を大分県(太平洋側)と長崎県(日本海側)で比較した解析はほとんどない。Umeharaらは、北海道と九州のアニサキス症患者のほとんどがA. simplex ssに感染しており、この種がアニサキス症発症に重要であると報告している(Parasitol. Int. 2007年)。我々の調査では、大分県の劇症型アニサキス症患者から摘出されたアニサキス種の多くがA. simplex ssだったものの、他の種も同定された。また、大分県の無症状感染者のアニサキス種の多くがA. simplex ssだったことより、劇症化の原因がアニサキスの種の違いによるという考え方には否定的な結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、サバに寄生するアニサキスの実態を明らかにするために、長崎県産、大分県南産のサバならびに大分県の関サバおけるアニサキス属幼線虫寄生の調査を行い、アニサキス幼線虫の寄生率が長崎県産、大分県南産、関サバの順に高いこと、また長崎県産はすべてA.pegreffiiが検出され、大分県南産、関サバでは主にA. simplex ssが検出されることから、生息域によってサバのアニサキス幼線虫の寄生率および寄生種が異なることを見出した。平成28年度では、大分県(太平洋側)と長崎県(日本海側)のアニサキス症患者や無症候型アニサキス感染者から内視鏡的に摘出されたアニサキスの種を同定し、アニサキス種の違いがアニサキス症の症状に関連するのか検討した。その結果、大分県の25名の劇症型アニサキス症患者から摘出された31匹のアニサキス幼線虫をPCR-RFLP法で解析したところ、26匹/20名がA. simplex ss、4匹/4名がA.pegreffii、1匹/1名がA.typicaに感染していたことが明らかになった。つまり、 A. simplex ssだけでなく、他の種によってもアニサキス症が発症することが示唆された。また、A. simplex ssの感染が多いのは、大分県のサバの多くにA. simplex ssが寄生していることを反映していると考えられた。
平成27,28年度の研究結果から、日本近海のサバから採取されるアニサキスは、太平洋側ではA. simplex ssが、日本海側ではA. pegreffiiが同定されることを確認した。一方、アニサキス症患者から摘出されるのはA. simplex ssが多いという先行研究があるが、大分県の患者の調査によってA. simplex ss以外のアニサキス種によっても劇症化することが示唆された。そこで、平成29年度では、A.pegreffiiが多く生息する日本海側(長崎県)での調査を行い、A.pegreffiiによる劇症化が起きているのか検証する。また、無症候型のアニサキス感染についても、アニサキス種の同定を行い、病態との相関を解析する。本調査により、長崎県の患者からA.pegreffiiが多く検出されたり、無症候型アニサキス感染者からA. simplex ssが多く検出されたりすれば、A. simplex ssが劇症化に重要とする先の報告は再考が必要となる。今後は、患者のアニサキス症既往歴やアレルギー随伴症状との関連を調査し、劇症化の原因が宿主側の感受性にあるのか焦点をあてる。実験的には、マウスにアニサキスを感染させたり、免疫したりして、IgEの産生やアレルギー応答を解析する。アニサキスによりアレルギーが惹起されるようであれば、アレルゲンの同定を試みる。
当初の計画通り、アニサキス症患者が集まらなかったため。
長崎県訪問などを行い、積極的に長崎県のアニサキス症患者サンプルを収集し、より良い研究結果となるように努める。研究成果を論文発表や学会発表などに研究費を使用していく。消耗品費 150万円、旅費(調査・学会出張) 50万円、人件費/謝金 10万円、英文校正料/論文投稿料 40万円
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Digestive Endoscopy
巻: 29 ページ: 233-234
10.1111/den.12764