近年、欧米において食道バレット腺癌が増加していることが知られている。我が国でも生活習慣の欧米化だけでなくピロリ菌の除菌による胃酸分泌能の改善によって今後、増える可能性がある。特に高齢者では逆流性食道炎の患者が多いことから今後、バレット食道を介して食道腺癌が多くなることが予想される。そこでバレット腺癌の診断や治療のためにそのリスク因子や分子異常などの病態の解明が期待されるが、バレット腺癌、特に早期癌の組織検体が得られる機会は少なく、そのため発生初期段階における分子異常には不明な点が多い。よって我々はESDで完全一括切除された早期のバレット腺癌の分子異常を網羅的に解析し、常在微生物との関連についても検討。また食道洗浄廃液を用いた新たな分子診断等、臨床応用への可能性を探求した。 1)我々はESDで切除した早期食道癌65例の臨床検体からのDNAを抽出し、定量的PCR法を用いてその発現頻度を検討。その結果、早期食道癌の62%でFusobacterium属が検出された。 2)エピジェネティックな異常やマイクロサテライト不安定性(MSI)に関しては、MLH1メチル化は7.5%、MSI陽性は0%であったが、Fusobacterium属との関連性は認められなかった。 3)Fusobacterium属が陽性の早期食道癌では有意差はないが、脈管侵襲陽性の癌が多い傾向があったが(P = 0.08)、喫煙や飲酒歴との関連性は認められなかった。 4)上部消化管内視鏡検査時の食道洗浄廃液を用いた検討では、癌組織のDNAとRNAは抽出可能であったが、Fusobacterium属の検出には至らず、今後は検出プライマーの改良など更なる解析が必要と考えられた。また癌組織からのDNAとRNAを用いた非侵襲的な分子診断方法は現在、食道癌の早期発見を目指し、前向きな検討を進めているところである。
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