研究課題
具体的内容:胃癌の原因菌であるHelicobacter pylori (H. pylori)の感染診断や抗生剤感受性を調べるための検査には時間と費用を要する。また、抗血栓薬を内服している患者においては、出血のリスクという侵襲を伴うことも問題である。本研究では「唾液による非侵襲的で、短時間でおこなえる、安価なH.pyloriの抗生剤感受性試験」を今後の標準試験とすることを目的としている。具体的な方法としては唾液を検体として用い、従来の内視鏡下生検組織の培養法による抗生剤感受性試験と比較し、その簡便性、検査の正確性を検討するというものである。意義:本研究で得られた成果により、抗血栓薬を服用している患者を含む全ての患者で出血のリスクをおかすことなく短時間で安価にH. pylori感染診断、抗生剤感受性を検査することができ、また感受性のある抗生剤を使用することにより確実にH. pyloriを除菌出来るという、医学的、医療経済的なメリットも非常に大きい。重要性:H. pyloriは胃癌を初めとする様々な胃疾患の原因菌であり、その確実な除去によりこれらの疾患の予防が可能である。我が国では年間5万人が胃癌で命を落としていることを考えると、H. pyloriの抗生剤感受性を調べ、それに応じた抗菌薬を投与するという「感染症の基本」として非常に重要な研究であると考える。
4: 遅れている
唾液中でcoccoid formで存在するH. pyloriは従来の培養法では検出出来ないが、Real-Time PCRによりH. pyloriの遺伝子を増幅し検出が可能である。従来の報告では唾液検体でも十分解析が可能であると報告されている。当初、H. pylori標準菌液を染みこませた乾燥濾紙(乾燥濾紙H. pylori菌液)を用いてH. pyloriに対するプライマーで検出を試みたところ、ネガティブコントロールに比べて、乾燥濾紙H. pylori菌液では十分なピークがみられた。次に検体を菌液の代わりに唾液を濾紙に採取し乾燥させたもの(乾燥濾紙唾液)に変更して同様のプライマーを用いて検出を試みたところ、H. pylori感染者、非感染者のいずれでも同様のピークがみられた。H. pyloriに対するプライマーを複数種変更し、アニーリング温度の条件検討を行うも、H. pylori感染者だけに特異的なピークが得られなかった。標準菌液では特異的なピークがみられ、乾燥濾紙唾液でヒト由来β-Globinを測定したところ増幅が確認されたことから、手技的に問題はないと考えられる。それにもかかわらず特異的なピークが検出出来ない理由は、唾液中の菌量の不足、もしくは報告されているプライマーの特異度に問題があるものと考えられる。
今後の方針としては、唾液中の菌量を十分に得るために、随時唾液ではなく起床時の唾液を検体として用い、核酸の抽出方法も再検討する。また、現行で使用しているH. pyloriのプライマーでは増幅する部位にMutationや遺伝子多型が生じる可能性が考えられるため、H. pyloriの別配列のプライマーを選定するのと並行して、日本人に感染しているH. pyloriの95%が保有している菌体毒素である東アジア型のcytotoxin-associated gene product A (CagA)に対するプライマーを用いて検討を行う。
すべて 2016
すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)