研究課題/領域番号 |
15K08959
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
芹澤 信子 順天堂大学, 医学部, 准教授 (00445545)
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研究分担者 |
永原 章仁 順天堂大学, 医学部, 教授 (00266040)
北條 麻理子 順天堂大学, 医学部, 准教授 (60372934)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ガレクチン-3 / 胃癌 / パクリタキセル |
研究実績の概要 |
ガレクチン-3はβ-ガラクトシダーゼに結合するレクチンで、細胞増殖や血管新生、アポトーシス抑制など、様々な生物学的役割を有する。また、様々なシグナル伝達系の調節に関与し、腫瘍の進展に重要な役割を果たすと言われている。臨床研究でガレクチン-3の発現と胃癌の悪性度には関連があるという報告がある。一方、切除不能進行胃癌の2ndライン治療に用いられているパクリタキセルは、微小管の安定化により、腫瘍細胞の分裂を阻害するというのがその主な作用機序であるが、MAPKを含むチロシンキナーゼ活性の調節に関与しているという報告がある。本研究では、ガレクチン-3の胃癌細胞の増殖における役割を解明し、さらにガレクチン-3を抑制し、パクリタキセルを投与した際の相互作用を確認することを目的としている。これまでに、ガレクチン-3をsiRNAにてノックダウンしたMKN-45(ヒト胃癌細胞)において、胃癌細胞の増殖が有意に抑制されることを細胞増殖アッセイにて確認し、Western blottingにてリン酸化ERKの発現が減少したことを確認した。同様の実験でリン酸化Aktについては、発現に違いは認めなかったことから、ガレクチン-3はERKシグナル伝達系を介して細胞増殖を調節しているということが明らかとなった。さらに、ガレクチン-3をsiRNAにてノックダウンした後にパクリタキセルを投与したところ、パクリタキセル単独投与群に比較して細胞増殖が抑制され、リン酸化ERKの発現が減少したことが確認できた。以上のことから、ガレクチン-3の発現を抑えパクリタキセルを投与すると、パクリタキセルの効果が増強され、ERKシグナル伝達系の抑制を介して、細胞増殖が抑えられることを証明した。これらの結果は、12月にシンガポールで行われたESMO-GIにて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに、ガレクチン-3はERKを介して胃癌細胞の増殖を調節していること、ガレクチン-3の発現を抑制した胃癌細胞にパクリタキセルを投与した場合、パクリタキセル単独投与群と比較し、ERKを介して細胞増殖が抑制されるという事を証明している。 しかし、ガレクチン-3によって活性化されたERKが実際どのように細胞増殖を促進しているかを検討するために、細胞周期を調節しているタンパク質であるサイクリンD1の発現を確認したが、ガレクチン-3 ノックダウン群とコントロール群の間に差を認めなかった。その原因として、上流の他のシグナル伝達系の関与が考えられたため、現在、実験系の再検討と共に、他のタンパク質の関与も検討中である。また、実臨床において、ガレクチン-3が有用な腫瘍マーカーになり得るかどうかを検討するために、胃癌の手術検体を用い免疫組織学的染色を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、ガレクチン-3はERKを介して胃癌細胞の増殖を調節していること、ガレクチン-3の発現を抑制した胃癌細胞にパクリタキセルを投与した場合、パクリタキセル単独投与群と比較し、ERKを介して細胞増殖が抑制されるという事を証明している。 この事実は、胃癌でパクリタキセルの効果が認められない症例において、ガレクチン-3の発現を抑える事で効果を得られる可能性があり、大変意義深いと思われる。また、実臨床において、ガレクチン-3が有用な腫瘍マーカーになり得るかどうかを検討するために、胃癌の手術検体を用いGalectin-3、Ki-67、CD1、ERK、Aktなどの免疫組織学的染色を行っており、発現の強度と年齢・性別・部位・腫瘍径・肉眼型・深達度・ステージ・転移の有無、手術後の化学療法の有無・再発の有無・予後などとの相関を検討するため症例を集積中であり、今後解析を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、基礎研究においてERKより下流のシグナル伝達系の働きがまだ解明できておらず、抗体や必要機器を購入するに至らなかったこと、また臨床研究において、胃癌症例の集積に時間を要しており、免疫組織学的染色に用いるための抗体や必要機器を購入するに至っていないことが挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
これらの金額と次年度に請求する研究費の使用計画としては、症例の集積を行い、免疫組織学的染色に必要な抗体や機器を購入すること。また研究概要でも述べた通り、ガレクチン-3ノックダウン群とコントロール群の間にサイクリンD1の発現に差を認めなかったため、現在、ERKより下流のシグナル伝達系の他のタンパク質の関与を検討しており、マクロアレイを行いガレクチン-3の胃癌の進展に関与するタンパク質を同定し、必要な抗体や機器の購入することである。さらに、研究成果を学会や論文にて発表するために必要な費用として使用することなどを考えている。
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