機能性消化管障害は、その患者が多いにもかかわらず有効な治療薬が存在せず、アンメットクリニカルニーズが高い疾患である。我々は、機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia: FD)、過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome: IBS)を代表疾患とする機能性消化管障害に関する研究を一貫して行っており、その中で、IBS病態類似モデルマウス、あるいはIBS病態類似モデルラットを使用した病態メカニズムの解明に取り組んでいる。現段階での成果としては、①新生仔期の消化管刺激が成長後の大腸において痛覚過敏を生じるIBSマウスもしくはIBSラットを作成した。②IBSマウスとラットの大腸粘膜組織内にはコントロールと比べ、明らかな炎症所見が見られないにも関わらず消化管痛覚過敏を生じていることを確認した。③IBSマウスにおいて、腸管を支配する神経の細胞体が存在する後根神経節(Dorsal root ganglion: DRG)内で,コントロールと比べ、ホスホジエステラーゼ2A (PDE2A) が有意に上昇していることを見いだした。④そのPDE2Aの阻害薬を前投与することにより大腸の痛覚過敏が抑制されることを見出した.⑤IBSマウスの消化管通過時間にはPDE2A阻害薬の影響は認めなかった。上記の結果により,機能性消化管障害の病態のうち,特に,大腸の知覚過敏に一次知覚神経内でのPDE2Aの変化が関与している可能性が示唆された.これらの結果により,IBS患者の腹痛症状に対する,新たな治療薬のシーズとなり得ると考える。
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