H27年度は小腸癌細胞株SIAC1細胞と野生型マウス小腸オルガノイドの検討を行い、正常オルガノイドはEGFやRspo1濃度依存性の増殖、小腸癌SIAC1細胞株オルガノイドはRspo1非依存性の増殖であることを解明した。DAPT、 porcupine阻害薬の投与でSIAC1オルガノイドのMUC2やアルカリフォスファターゼの発現が増加がみられた。放射線小腸傷害におけるストレス応答キナーゼASK1の働きをオルガノイドを用いて検討し、細胞死の頻度、経過時間は野生型オルガノイドと同定度であった。 H28年度は誘導性e-cadherinノックアウトマウスモデルを用いてLgr5陽性小腸幹細胞とK19陽性分化小腸細胞におけるe-cadherinの機能を比較し、e-cadherinが小腸幹細胞においては小腸上皮形成に必須の分子であることを明らかにした。また放射線小腸傷害における炎症性サイトカインシグナルの役割について検討し、TNFαシグナルの影響は限定的であることが明らかになった。 H29年度はSIAC1オルガノイドのxenograftを作成し、大腸がん分子標的薬であるcetuximab、bevacizumabの治療効果を検討し、有意な腫瘍増殖抑制効果を示さないことが明らかになり、小腸癌特異的な治療の必要性が示唆された。 また小腸粘膜障害の臨床的検討を行った。当科および関連施設で小腸潰瘍性疾患と診断された症例は68例で、成因としては、NSAID潰瘍が最多で32%、他に腸管術後の吻合部潰瘍、虚血性小腸炎、小腸癌、放射線性腸炎、リンパ腫、クローン病などであった。これらの潰瘍性病変のうちでバルーン内視鏡が診断に有用となる因子を解析し、単発性の潰瘍が、また再出血に関連する因子を検討し、低用量アスピリン服用者および多発性潰瘍症例が関連することを明らかにした。
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