研究課題
我々はステリック再生医科学研究所と共同で、クローン病の腸管線維化の原因として糖硫酸転移酵素CHST15とコンドロイチン硫酸E(CSE)の経路が重要であることを明らかにし、ヒトCHST15遺伝子の発現を特異的に抑制するsiRNA医薬「STNM01」を開発した。平成24年度に日本国内でクローン病患者を対象としたSTNM01の第I相臨床試験を行い、同薬の安全性を証明した。興味深いことに、STNM01には線維化抑制作用のみならず、粘膜治癒効果も見られたがその作用機序は不明であった。そこで本研究においてはRNA干渉医薬STNM01の炎症性腸疾患に対する粘膜治癒促進作用の機序解明を目的とする。STNM01の炎症性腸疾患に対する粘膜治癒促進効果発現機序を明らかにするため、以下の研究計画・方法を作成した。1. CHST15遺伝子欠損マウスの急性・慢性DSS腸炎モデルにより、腸管局所での炎症、腸管上皮細胞再生、線維化作用に及ぼすCHST15/CS-E経路の役割を総合的に解析する(in vivo実験)。2. マウス・ヒト線維芽細胞と腸上皮細胞、およびリンパ球に対する抗CHST15 siRNAによる炎症、上皮再生、線維化作用に対する影響を細胞培養系で解析する(in vitro 実験)。3. クローン病患者および潰瘍性大腸炎患者の生検検体を用いて、腸上皮細胞および粘膜固有層浸潤細胞におけるCHST15と粘膜治癒に関わる因子の発現の相関を、蛍光免疫染色、qRT-PCR法および器官培養法にて検討する(臨床検体における観察)。平成28年度の研究実績の概要として、マウスin vivo実験で内視鏡的siRNA粘膜下注入が全大腸に薬剤を到達することでCHST15の発現抑制を介して炎症と線維化を阻止すること、またin vitro実験でヒト大腸上皮細胞のCHST15発現も抑制することを証明し論文発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
STNM01の作用機序、安全性を確認する目的で実施した前臨床試験に相当する実験内容の成果をまとめ、平成27年に論文発表を達成した(PLoS ONE DOI:10.,1371/journal.pone.0158967).現在STNM01のヒトへの効果をまとめて論文発表準備中である。
CHST15遺伝子改変マウスを用いた実験の予備データは共同研究者の愛知医大武内教授グループが実験をおこなって良好な結果が得られているが、さらに実験を進めて論文発表しうる質のデータを蓄積することを目指している。最終的にはヒトでの結果と合わせて、STNM01の粘膜治癒促進効果の証明と機序解明を論文発表することを目指している。
平成28年4月より研究代表者は所属研究機関を移動したのに伴い、移動先での研究体制を整えるのに時間がかかり、研究計画の一部の実施を延期する必要が生じたため。
平成29年度には新しい所属研究機関での実験・研究体制も整ったので、一部延期していた実験を平成29年度中に完遂する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
PLoS ONE
巻: 11 ページ: 1-17
10.1371/journal.pone.0158967