研究課題/領域番号 |
15K08978
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
倉原 琳 (海琳) 福岡大学, 医学部, 講師 (00341438)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | myofibroblast / TRPA1 / inflammation / fibrosis / Crohn's disease / stenosis |
研究実績の概要 |
これまでの我々の研究結果から、消化管筋線維芽細胞に多く発現するTRPA1チャネルが、大建中湯に含まれる乾姜・山椒の成分、ステロイドやピルフェニドンなどの抗線維化薬で活性化され、消化管筋線維芽細胞の線維化マーカーの発現を抑制することを見出した。 TRPA1チャネルの活性化と組織線維化との関連をin vivoで確認するために、CRISPR/Cas法を用いてTRPA1ノックアウトマウスを作製し、週に一回TNBS(2,4,6-Trinitrobenzene sulfonic acid)注腸投与(計6回)によって大腸炎症・線維化モデルマウスを作成した。腸の組織を固定して炎症や線維化の重篤度についてTRPA1ノックアウトマウスと正常マウスと比較検討した。Hematoxylin-Eosin染色の結果からTNBS投与によって惹起される炎症に関して、TRPA1-/-ノックアウトマウスではWTマウスより強く・広く粘膜固有層に慢性炎症細胞浸潤が炎症の病理像が観察され、局所的な単核球の集簇巣を多数認めた。Masson Trichrome (MT)染色の結果から、正常腸組織では粘膜筋板の走行に沿って、膠原線維が均等に分布しているのに対し、TRPA1-/-ノックアウトのTNBS投与群では粘膜固有層および筋層に膠原線維が増生して、WTマウスのTNBS投与群より明らかに広範囲の線維化が確認された。 また、クローン病患者の生検組織を採取して、狭窄部位と非狭窄部位を比較すると、狭窄部位のMT染色では多くの膠原繊維が観察され、免疫染色像から粘膜固有層に多くの筋線維芽細胞が集積して、qPCRの結果からTRPA1チャネルのmRNA発現量も非常に高いことがわかった。 以上から、TRPA1チャネルは消化管線維芽細胞・筋線維芽細胞において、炎症やそれに伴う線維化に対して抑制的に働いている可能性が示唆されました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
培養細胞を用いた実験のみならず、TRPA1ノックアウトマウスを用いたTNBS腸炎モデルの作成で確実にTRPA1チャネルによる抗炎症・抗線維化作用を証明することができた。 免疫染色による観察の結果から、TRPA1チャネルは粘膜固有層にある線維芽細胞・筋線維芽細胞に発現していることが明らかである。特にクローン病患者の組織を用いた蛍光免疫染色の結果ではTRPA1と線維芽細胞のマーカーが100%共在して、線維化部位に増えていることが確認できた。 最終年度である今年の最終目標として、食品ライブラリーを用いたスクリーニングで発見した抗線維化作用のある食品成分でin-vivo実験を行う予定である。また、外科手術の非狭窄部位・狭窄部位組織から単離した筋線維芽細胞のCa2+動態や膜電流の変化について、デジタルCa2+イメージング法やパッチクランプ法による比較検討を行い、イオンチャネルと炎症・狭窄の病態生理学的意義を探る。
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今後の研究の推進方策 |
WTマウスとTRPA1-KO(CRISPR)マウスの腸炎モデルをTNBS 注腸投与で作成して、我々のスクリーニング実験で発見した有効食品成分を投与する。炎症進行度合いの違い(1. 体重変化率2. Disease Activity Index(DAI) 3. 腸管長4. 病理組織像5. TNF-α(ELISA))・狭窄の重篤さの比較、腸管の組織レベルでの応答の変化(腸管収縮および細胞の遊走性)につい、KOマウスとWTマウス間で有効食品成分投与の効果を比較検討する。サイトカイン・ケモカイン放出;コラーゲン・MMP・TIMP産生、TRPの発現の変化をデジタルリアルタイムPCRや免疫ブロットで評価する。線維化・上皮間葉転換・筋線維芽細胞浸潤・線維芽細胞形質転換などの現象におけるストレスファイバー構築に関わるTRPA1チャネルの役割について検討する。有効食品成分を投与したマウス由来腸組織の病理学的観察により、線維化の際の上皮細胞・(筋)線維芽細胞・平滑筋細胞と他の免疫担当細胞(腸管上皮細胞・腸管マクロファージ・樹状細胞)との関わり合いについて形態的な比較検討を行う。 また、福岡大学消化器内科や消化器外科からクローン病患者の非狭窄部位・狭窄部位の組織を提供して頂いたので、上述の実験で重要性が確認された分子の局在や発現量について患者組織で精査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究の予定を計画していた臨床の先生の異動により、臨床研究の計画が2017年度にずれ込みました。
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次年度使用額の使用計画 |
臨床組織の採取:細胞単離、液体窒素保存、mRNA抽出用に保存、電顕観察用組織の作成、ホルマリン固定。病理学的観察、ターゲット分子の定量、局在観察実験。
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