研究課題
B型肝炎ウイルス(HBV)感染は世界的な問題の一つであり、肝硬変や肝癌の原因となる。HBVは肝細胞に侵入し、複製され、細胞外に放出されるという生活環を形成するが、細胞内侵入後の輸送経路や、複製過程における構成タンパク質やゲノムの輸送経路、そして成熟したウイルスが放出される経路についてはほとんど明らかになっていない。これらを解明することで新たなHBV感染症の治療ターゲットを同定できる可能性が高い。本研究では小胞輸送の分子スイッチであると報告されている低分子GTPaseのRabタンパク質ファミリーに焦点を当てて、HBVの生活環に必要な輸送経路を明らかにし、その治療応用の可能性を検討することを目的とした。研究期間の3年間の1年目である平成27年度はまず、HBVの放出に必要とされるRabタンパク質のスクリーニングとその検証を行った。HBV発現細胞であるHepG2.2.15を用いて、61種類のRabタンパク質をノックダウンし、培養上清中に放出されたHBV粒子を定量すると、ノックダウンにより放出量が変化するRabタンパク質を多数抽出することができた。そのうち、Rab5BのノックダウンでHBV粒子放出が著明に増加することが分かり、このタンパクに着目して研究を進めた。Rab5Bのノックダウンで増加したHBV粒子はショ糖密度勾配遠心による浮上密度が本来のHBV粒子よりも低いことが分かったが、NTCP発現HepG2細胞を用いた感染実験では感染性は保たれていた。Rab5Bはエンドサイトーシスの初期に作用すると考えられているが、同じ経路で作用することが分かっているクラスリンやAP-2をノックダウンした場合も同様の変化が見られた。このことから、クラスリン依存性エンドサイトーシスを阻害すると、本来と異なるウイルス放出経路が亢進する可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
Rabタンパク質のスクリーニングにより、HBVの生活環後期に影響を与える興味深いタンパク質が同定できた。計画では生活環前期についてもスクリーニングを行う予定であったが、Rab5Bのノックダウンによるウイルス粒子の変化が生じる機序の方が重要であると考えられ、そちらを優先して進めた。
平成28年度はまず引き続きRab5Bに着目して、そのノックダウンによる変化が生じるメカニズムを明らかにする。また、ノックダウンによりHBV放出量が変化したその他のRabタンパク質のHBV生活環における働きについても検討していく。さらに、HBV生活環前期に必要なRabタンパク質のスクリーニングを行い、生活環全体に検討を広げていく。これらの検討によりHBV粒子およびその構成成分の細胞内での輸送経路を明らかにし、新しい治療ターゲットとなりうる経路や分子の同定を行う予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
J Med Virol
巻: 88 ページ: 69-78
10.1002/jmv.24309