研究課題/領域番号 |
15K08985
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡崎 佐智子 東京大学, 医学部附属病院, 病院診療医 (30648720)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肝臓学 / 脂肪性肝炎 / 肝癌 / 脂質代謝 / リパーゼ |
研究実績の概要 |
肝炎、肝硬変、肝癌の発症・進展に寄与する因子として、脂肪肝に蓄積する脂質の役割が注目されている。申請者は、細胞内の中性脂質水解酵素(リパーゼ)の役割に着目して研究をすすめる過程で、リパーゼとその代謝産物である遊離コレステロールが、脂肪肝における肝炎を惹起するというオリジナリティーの高い予備的知見を得てきた。本研究課題ではその分子メカニズムと病態生理学的意義の解明を目指している。具体的には、遊離コレステロールによる肝炎がインフラマソームを介している可能性を示す予備的知見を発展させ、その分子機構を解明、さらに、脂肪肝が肝癌発生を惹起するin vivoモデルを用いて、リパーゼの肝癌発生における生理的意義を明らかにすることを目的としている。これまでの知見は、ホルモン感受性リパーゼ(HSL)の過剰発現によって得られたものであるが、本年度は、肝臓に発現するその他のリパーゼの過剰発現も同様の現象(リパーゼ過剰発現による脂肪毒性)をきたすのかを検討するため、その他リパーゼ群(脂肪細胞TGリパーゼ (ATGL)、中性CE水解酵素(nCEH)、TG水解酵素-1(TGH-1)、TGH-2)のアデノウィルスを作成し、解析を行った。現時点の予備的結果からは、リパーゼ過剰発現による肝細胞毒性は、HSLに特有の現象である可能性も示唆されている。これが事実であれば、HSL特有の脂肪分解代謝産物(あるいはその局在の特殊性)が重要である可能性が考えられ、新たな知見につながる可能性があり、実験条件(アデノウィルスの投与量、投与後のタイムコースでの検討)など含め、詳細に検証を進めている。脂肪肝の病態進展におけるリパーゼの意義の解明からの脂肪性肝炎や肝癌の新たな治療標的経路の同定を目指し、今後も検討をすすめていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脂肪肝におけるリパーゼの意義を追求するため、これまでホルモン感受性リパーゼ(HSL)の過剰発現モデルを用いて検討をすすめてきた。肝細胞内にはHSL以外にも複数のリパーゼがあり、それらの過剰発現モデルでの検討を行うことは、本研究計画の予定されたテーマの一つであった。本年度はこのテーマを中心に解析をすすめてきたが、その結果、リパーゼ過剰発現による脂肪毒性はHSL特有の現象である可能性を示す予想外の結果が示唆され、その検証に時間を要した。そのため、他に計画したテーマの達成度も含めて考えれば、達成度はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
肝細胞内リパーゼの活性増加による脂肪性肝炎について、これまで得られた結果はホルモン感受性リパーゼ(HSL)の過剰発現モデルによるものであった。昨年度までの検討により、HSL以外のリパーゼの過剰発現ではこの現象がおきない、という予想外の可能性が示唆されているが、本年度はまずこの知見について多角的な検討を行い、知見を確立する。次に、その他の以下の研究項目についても、予定通り、順次検討をすすめていく予定である。1-1)HSL過剰発現モデルを用いた、FC誘発肝炎の分子シグナリング機構の同定(IL-1β/インフラマソーム/IL-6経路、TLR4経路の寄与の解明) 、1-2)HSL過剰発現モデルを用いた、FC誘発肝炎のメディエーター細胞の同定(Kupffer細胞、肝星細胞、その他の骨髄由来細胞、HPCの寄与の解明)、2)細胞内リパーゼ欠損マウスにおけるIL-1β/インフラマソーム/IL-6経路の活性とその役割、3)肝癌発生におけるリパーゼの生理的意義の解明。1)については平成28年度の計画として行い、2)、3)については平成28年度、平成29年度の計画として行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の計画通りに研究費を使用してきたが、予想外の結果が得られたために、研究の進捗状況が、他欄に記載の通り、やや遅れていることもあり、研究成果発表に要する経費の使用が少なくなり、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、他欄に記載の通りに、予定通り研究を進展させ、研究成果発表もすすめていく。今回の残額を、次年度分の研究費と合わせて、活用する予定である。
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