研究課題
本研究の目的は、肝癌の治療抵抗性に関与する幹細胞特性をエピゲノム制御の観点より明らかにすることである。肝癌組織内に見られる細胞の不均一性は、腫瘍細胞の周辺の外的環境のみならず腫瘍のもつ内在的肝細胞性にも起因すると考えられる。さらに臨床的には、このような幹細胞性が組織全体としての治療抵抗性にも深く関与している。幹細胞特性の観点から考えると、細胞の分子進化を伴う適応には、ゲノム変異よりむしろエピゲノム制御異常が重要な意味をもつと考えらえる。そこで、本研究では、幹細胞形質を継時的に観察できるシステムを用いて肝癌幹細胞様分画の細胞特性を分子生物学的に定義し、その動的な細胞挙動を明らかにするとともに、肝癌幹細胞様分画のエピゲノムプロファイルを明らかにすることで、その遺伝子発現様式を規定しているエピゲノム制御因子を探索することを目的とする。初年度はFACSにより濃縮した幹細胞分画の遺伝子解析を行った。幹細胞様分画には上皮細胞分化の関連因子、接着因子が多数含まれるのに対して、非幹細胞様分画にはさまざまな転写因子や発生分化に関わる経路の遺伝子群、サイトカインやクロマチン修飾因子が含まれていた。すでに他癌種の癌幹細胞に高発現している特徴的な表面マーカー遺伝子は必ずしも発現しておらず、本細胞株での幹細胞様分画に特徴的な表面マーカーが存在することも明らかとなった。しかし、この時点での濃縮では依然多様な形質をもつ細胞集団の集合体であることが予想されため、本年度はシングルセルの単離・捕捉を目的としてフリューダイムC1システムによる一細胞解析を行った。マイクロ流路中で細胞溶解、cDNA合成を行い、1細胞ごとに異なるバーコード配列を内蔵したアダプターを付加してPCRを行い、大量並列型シーケンサーによるRNA-seq解析を行うことで、96細胞の遺伝子発現プロファイルを得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
FACSで濃縮した肝癌細胞株幹細胞様分画に対して一細胞遺伝子発現解析を行った。幹細胞様分画で発現が上昇・低下する遺伝子群の発現変動は1細胞レベルでも再現されたが、個々の細胞の発現レベルにはかなり不均一性が存在することが明らかになった。1細胞あたりに同定できる発現遺伝子数は5000個程度であり、細胞形質によりサブグループを決定するには十分と考えられた。細胞周期による発現変動が最も大きなファクターであったが、それ以外にもさまざまなパスウェイに関与する因子に発現の不均一性が見られた。
一細胞レベルでの発現の多様性は確認できたが、こうした発現制御を決めるエピゲノム修飾のプロファイルを得るには、まだ技術的な課題が多く存在する。まずは、少量細胞でのエピゲノム解析を進め、一細胞レベルでのエピゲノム解析技術の確立を変更して検討する。また、今回得られた96細胞の解析で、真に幹細胞特性を有する細胞が得られているかは確認できていない。数千細胞などより多くの発現プロファイルの取得も視野に入れて、研究を進める。
一細胞解析に使用する試薬の再検討を行った結果、事前の予備実験を再度行った上で決定する旨に変更したために、試薬発注時期が次年度に持越しとなった。
予備実験での評価を完了した上で、次年度に試薬発注を行う。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
J Am Chem Soc.
巻: 138(43) ページ: 14178-14181
Nat Genet.
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10.1038/ng.3547
http://www.genome.rcast.u-tokyo.ac.jp/
http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/index_ja.html