研究課題
研究代表者らは、これまでに確立してきた肝幹細胞生物学研究の学術基盤をもとに、 細胞表面抗原によって高度に濃縮したマウス肝幹細胞画分を用いて、その分化・増殖に関わる新たな分子機構を解析し、特定の標的分子の発現を調節することにより移植ドナー細胞の「至適成熟度」を決定し、これらの結果を基盤に、ヒトiPS細胞を用いた新規ヒト肝臓キメラマウスモデルの構築を試みる研究を行い、今年度は下記の成果を得た。(1) マウス肝幹・前駆細胞の分離、培養、in vitroでの形質解析と肝幹・前駆細胞におけるMT1-MMPの機能解析:マウス肝幹・前駆細胞の分離、培養技術の最適化をさらに進め、安定した分化誘導培養が可能になった。MT1-MMPの強制発現、MT1-MMP欠損マウスを用いたマウス肝幹・前駆細胞における機能解析の結果、in vitroでの増殖能には有意差を認めない一方で、MT1-MMPが肝細胞成熟化には抑制的に、胆管の管腔形成モデルでは促進的に機能することが示された。これらの結果を論文として報告した(Otani, Kakinuma, Asahina, Watanabe et al, Biochem Biophys Res Commun. 2016)。(2) MT1-MMP欠損マウスを用いたTranscriptome解析:MT1-MMP欠損マウス由来の肝幹/前駆細胞、及びMT1-MMP欠損マウス由来の新生仔期肝臓を用いてTranscriptome解析を行い、肝幹/前駆細胞のMT1-MMP機能低下によりEGFシグナルの亢進が誘導されることが示された。以上の結果を前述の論文(Otani et al. 2016)及びJDDW 2015シンポジウム(第19回日本肝臓学会大会)で発表した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画したとおり、(1) マウス肝幹・前駆細胞の分離、培養、in vitroでの形質解析と肝幹・前駆細胞におけるMT1-MMPの機能解析については、想定通りの進捗を得た。すなわち、その結果をまとめ国内外の学会において発表し、さらに原著論文として採択されることができた。本論文の結果は、これまで、まったく不明であったMT1-MMPの肝幹・前駆細胞機能を解析し、門脈周囲の肝幹・前駆細胞による胆管形成を促進的に制御し、正常に進行させるために重要な因子であること、さらにMT1-MMPが肝幹・前駆細胞の成熟化に寄与することをそれぞれ世界で初めて示し、胆管形成に係わる新たなメカニズムを提示しえたと言える。次に(2) MT1-MMP欠損マウスを用いたTranscriptome解析についても想定通りの進捗を得た。網羅的な検索から得られたデータは上記(1)で示す研究の成果を裏打ちするデータであったと共に、新たにMT1-MMPの機能低下がEGFシグナリングの代償的な亢進を惹起すること、その結果、肝細胞成熟化が進行する可能性が示された。これらの結果を基盤に次年度の研究をさらに推進することが可能になり、今後の発展が期待できると考えている。
前記(1)-(2)に関しては平成27年度の結果に基づき、さらにこれを継続して遂行する。さらに下記の(3)及び(4)に関して、これまでの成果を基盤に推進してゆく。(3). ApoE欠損マウスをレシピエントとしたマウス肝幹・前駆細胞移植後の細胞動態の解析:我々は移植した初代肝細胞・初代肝幹細胞によって、高度のドナーキメリズムが得られる細胞移植系を独自に開発した。本移植系においては、細胞移植後24週以上にわたって、ドナー細胞がレシピエント肝臓に生着・増殖することが可能である。• この移植解析系を用いて、前述の(1)-(3)によって抽出されたMMP14標的分子を強制発現もしくはknockdownした細胞を用いて、移植を行い、移植効率に与える影響を解析する。遺伝子改変動物の入手が可能な場合には、それも併用して解析も進める。これを重ねて行うことによって、より効率的なdonor細胞の「移植至適成熟度」を探索する。(4). ヒトiPS細胞由来細胞によるヒト肝臓キメラマウスモデルの構築:この結果を基盤に、ヒトiPS由来肝幹/前駆細胞を用いた新たなヒト肝細胞キメラマウスモデルの構築に応用する。具体的には、Alb-uPA/SCIDマウス、MUP-uPA/SCIDマウス、あるいは薬剤処理したNOD/SCIDマウスをレシピエントに、ドナー細胞を移植してキメラマウスの構築を試みる。ヒトiPS由来細胞から肝幹・前駆細胞を誘導する手法に関しては既に連携研究者が報告しており(PLos One, 2013)、同様の手法を用いて誘導する。ドナー細胞における標的分子の調節に関しては、PiggyBac Transposon systemを用いて、ヒトiPS細胞の段階でTet誘導性に発現調節が可能となる系を構築する。
消耗品として計上していた、必要な試薬等が、計画当初よりも廉価で購入可能であったため。
解析を発展させるためにも、今後は検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を当初の予定よりも増量して購入する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
Biochem Biophys Res Commun
巻: 469 ページ: 1062-1068
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doi: 10.1111/jgh.12902