研究課題
研究代表者らのグループは、本研究において、(1)非古典的経路Wntリガンドを介するシグナルを中心として、細胞表面抗原によって高度に濃縮した肝幹細胞画分を用いて、その分化・増殖に関わる新たな分子機構を解析し、(2)この結果に基づき、PiggyBac Transposon法を用いてWntシグナルを調節しうるヒトiPS細胞株を作成し、その分化・増殖機構を解明する。さらに (3) 有用な下流分子の同定した後に、低分子化合物ライブラリを用いて下流分子の活性化を調節しうる化合物を探索する研究を行い、今年度の成果として下記を得た。(1)非古典的経路Wntリガンドを介するシグナルを中心とした肝幹細胞画分の分化・増殖に関わる新たな分子機構の解析:リン酸化アレイシステムを用いた網羅的な解析によって、肝幹細胞画分では非古典的経路WntリガンドはCaMKII以外には強く作用していなかった。関連シグナルの探索を進めた結果、Bone Morphogenetic Protein-4 はWnt5aと協調的に作用して、CaMKIIの活性化をコントロールする結果を得た。本研究成果は、さらに詳細な検討を重ねつつ、原著論文を投稿中である。さらに関連シグナルとしてMMP-14の機能解析を行い、MMP-14は肝幹/前駆細胞の胆管管腔形成を正に制御することが示され、報告した(Otani et al, Biochem Biophys Res Commun, 2016)。(2)PiggyBac Transposon法を用いて関連分子を調節したヒトiPS細胞株の作成と、その分化・増殖機構の解明:関連した転写因子であるProx1の強制発現細胞株の樹立に成功し、現在はその結果を解析中である。
2: おおむね順調に進展している
当初計画したとおり、(1)肝幹細胞画分の分化・増殖に関わる新たな分子機構の解析に関しては想定通りの進捗を得た。すなわち、Bone Morphogenetic Protein-4 はWnt5aと協調的に作用して、CaMKIIの活性化をコントロールし、胆管形成を負に制御することが示され、新規の知見を発見した。この成果は現在、結果を原著論文として投稿している。さらには、MMP-14の欠乏が肝細胞成熟化をEGFシグナルを介して正に制御すること、逆に胆管の管腔形成を遅延させることが示され、本結果を原著論文として発表した。この結果は、MMP-14の肝幹/前駆細胞における機能を初めて報告したものである。(2)PiggyBac Transposon法を用いて関連分子を調節したヒトiPS細胞株の作成と、その分化・増殖機構の解明については、細胞株の作成に成功したところであり、その形質を評価しているところである。有望な結果を得た場合には、関連分子をCrispr/Cas9系によるknock out細胞の樹立を計画することも視野に入れている。これらの結果を基盤に、次年度はさらに研究を発展させることが期待できると考えている。
前記の(1), (2)に関しては平成27年度の結果に基づき、さらにこれを継続して遂行する。さらに下記の(3)低分子化合物ライブラリを用いたスクリーニングに関しても、これまでの成果を基盤に推進してゆく。研究グループでは、既にケミカルライブラリーを対象としてスクリーニングを行う手法を確立し、報告している(Antimicrob Agent Chemother, 2012)。そこで、Wnt5a関連分子のreporter geneを同定できれば、これを検出できるreporter plasmidを作成し、Lentiviral vectorを用いて恒常発現細胞を樹立する。これを用いて、低分子化合物スクリーニングによりWnt5a関連分子を増強/低下させる化合物を探索する。当該施設が有する生物活性が未知で構造的多様性をもつケミカルライブラリーを対象としてスクリーニングを行う。抽出された候補化合物については、構造活性相関解析を行い、類縁化合物での反応を確認することで、活性に重要な化学構造を明らかとする。同定した化合物を用いて、ゲノム修飾をしていないヒトiPS細胞を用いて、Wnt5a関連分子の調節により、肝幹・前駆細胞への誘導効率と分化の様態に変化がおきるか否かを検証する。
消耗品として購入を検討していた試薬等が、計画当初より廉価で購入可能であったため。
今後の解析をさらに発展させるため、検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
Biochem Biophys Res Commun
巻: 469 ページ: 1062-1068
doi: 10.1016/j.bbrc.2015.12.105
Heptol Res
巻: 46 ページ: 312-9
doi: 10.1111/hepr.12566
J Clin Transl Hepatol
巻: 4 ページ: 5-11
doi: 10.14218/JCTH.2015.00047
J Gastroenterol Hepatol
巻: 30 ページ: 1075-84
doi: 10.1111/jgh.12902